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独楽帳

青天を行く白雲のごとき浮遊思考の落書き帳

消閑と消光

「はてな匿名ダイアリー」の投稿者の質問だが、質問趣旨とは異なる方向で考えたい。それは「時間泥棒」という言葉では、「時間」が絶対的に肯定的価値として見られていることへの疑問である。
というのは「何もやることがない」時間というのは、一種の苦痛であり、災厄だという考えもあるからだ。たとえば監獄(病院でも何でもいい)で、何の作業もすることなく、一日中独房に入れられた状態を考えてみたらいい。

だから昔は「消閑」という言葉があったのだが、現代人はスマホなどを見て一日が潰れるのでそういう「閑(暇)」というのが意識されなくなったようだ。スマホだけで満足できるなら、それも幸福な人生だろう。

ちなみに「吾輩は猫である」の中で迷亭が苦沙弥先生に送った暑中見舞いの葉書の中に「その後何事もなく消光つかまつり候」みたいな文面があったと思うが、この「消光」も「時間をつぶす」意味である。

(以下引用)

2024-07-29

時間泥棒」みたいに、ネガティブ言葉ポジティブに使ってるものってある?

ヤバい」「エグい」とかもそうなんだけど、他の言葉と組み合わせてるものとなると、思いつかない

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dear →ears→ whiskers

あまりに暑いので、頭がぼうっとしており、まともな読書ができないので、「不思議の国のアリス」の英語原書と、その翻訳数書を、半分寝ぼけながらちらちらと眺めていると、興味深い箇所に出遇った。
話の冒頭でアリスが追っかけていた白兎が、アリスが穴に落ちた後、再度前方を駆けていくのをアリスが目撃する場面で、その時、兎は

"Oh my ears and whiskers,how late it's getting !"

と言うのだが、手持ちの翻訳はこの部分をそれぞれこう訳している。

「ああ、なんてこったい、すごく遅れちまった!」(河合祥一郎訳)
「やれやれ、どうすんだい、たいした遅刻だよなあ!」(矢川澄子訳)
「なんてことだ、よわったな!どんどん遅くなっちまう!」(福島正実訳)

ごらんのとおり、どの訳者も「my ears and whiskers」の訳から「逃げている」。
それも当然と言えば当然で、これは翻訳不可能だからだ。
勘のいい人は、白兎が最初に登場する場面で、

”Oh dear! Oh dear! I shall be too late!"

と言ったのと、この「my ears and whiskers」がつながっていることに気づくだろう。で、どの翻訳者も、それは分かっていたと思うが、ここはほとんど翻訳不可能なのである。つまり、英語の洒落なのである。
dearに感嘆詞としての用法があり、「おや、まあ」などと訳せることは、中学生でも知っている人もいるかもしれない。そして、帰国子女などは、その変化形で「dear me!」という表現があることも知っているかもしれない。これも「おや、まあ」なのだが、my dearとなると、「私の愛しい~」となるのは、それこそ中学生でも知っていることだ。そこで、「my dear」が、兎が話し手なので「my ear」となり、兎には頬髯があるので「my whiskers」と続くわけである。
つまり、英語の二重三重の連想が、洒落となっているわけで、これは翻訳不可能ということになる。
 


ヘルタースケルターで周章狼狽

「ステップファーザー・ステップ」について書くのは三回目だが、この短編集は、対象年齢がよく分からない。一見ジュブナイルだが、内容には不倫・強姦・殺人など、殺伐とした話がけっこうある。まあ、今どきの子供にこういうのは特に問題にはならないのだろうか。それとも、対象は大人読者なのか。それにしては、作中の謎やトリックはかなり雑である。それを話術でカバーしているわけだ。
で、作中の粗を見つけて、その考察をするのも、読書の楽しみ方のひとつだ、というのが私が毎度書いていることだ。
ここでは、作品の粗ではなく、言葉についての考察も、同様の娯楽だ、という話である。

たとえば、私は「ヘルタースケルター」という言葉の意味を長い間知らなくて気になっていたのだが、この短編集の作品のひとつの題名が「ヘルタースケルター」で、作中にその訳語が「周章狼狽」とあって、積年の疑問が解消した。しかし、それと同時にこの「周章狼狽」の「周章」とは何だ、という疑問が生じたのである。私がこの単語を見たのは生涯で10ぺんもあるかどうかだが、その「周章」に疑問を持ったのは初めてである。
「狼狽」は誰でも分かるし、それが「狼の寝床」(狼が這いまわった様か?)みたいなのと関係がある、と何かで読んだことがある人もいるだろう。しかし、「周章」は、まったく推理ができない。「周」も「章」もうろたえることと関係があるようには見えない感じである。いや、「漢字」である。まあ、「周」だけなら、問題の周辺を意味すると推定できないこともないが、「章」が問題だ。
あきらめて、漢和辞典で「章」を調べてみる。

ふみ(文書)、のり・手本、あきらか(にする)、あらわれる、しるし、はん(印)、あや(美しいもよう)、いろどり

どうも、どれもピンと来ない。そこで「周章」を調べてみる。だが、「周章」は載っていない。しかし、「周」には回る意味があるから、うろたえて歩き回る様、と言えないこともない。「章」に関してはお手上げだ。まあ、「しるし」、つまり「周章」で「うろたえる様」としておこう。

「腐っても牛乳」?

例の、宮部みゆきのシリーズ短編集「ステップファーザー・ステップ」の中に、また読んでいて意味不明の箇所があったので、推理してみることにした。
それは、「ワンナイト・スタンド」の中の


「親父って牛乳みたいな元弁護士だな」
「どういう意味だね?」
「腐っても役に立つ」

という箇所で、もちろん、これは「腐っても鯛」のもじりだろうが、いくら何でも腐った牛乳に使い道は無いだろう、と思ったわけだ。もちろん、腐った鯛も使い道は無いだろうが、少なくとも「元々が貴重な存在だった」という部分はある。しかし、牛乳だと元からそれほど貴重なわけでもない。
そこで考えたのが、またしても、「これは女性特有の思考なのではないか」ということだ。男なら、腐った牛乳は即座に捨てるだろう。まあ、飢え死にしそうな場合はどうかわからないが、ほとんどの男は腐った牛乳の利用法など考えないと思う。
そこで、「賞味期限を過ぎた牛乳の利用法」でググってみたら、やはりあった。もちろん、「賞味期限を過ぎた」と「腐った」では条件が違うが、程度問題の話、としておく。
要するに、この場合も「女性的思考を、男性登場人物にさせているミス」という、揚げ足取りであるが、そういう読み方も、なかなか面白いのである。

(以下引用)

賞味期限切れの牛乳の使い道 

 

1:牛乳風呂に 

いろいろ調べていて、真っ先に試してみたいなと思ったのが牛乳風呂です。牛乳には肌にいい成分がたくさん含まれていて、牛乳風呂は美肌に効果があるのだそう。世界三大美女の一人であるクレオパトラは自分の美貌を保つために牛乳風呂を愛用していたといわれています。

 

【牛乳に含まれる成分による美肌効果はこちら】

  • アルブチン 肌の乾燥を予防
  • カゼイン 肌の老廃物や毛穴汚れの除去
  • 糖たんぱく質 コラーゲン生成を促進、シワやシミの症状緩和
  • ビタミンA 活性酸素を抑制
  • ビタミンB2 細胞を再生し、脂質の代謝を促進

 

牛乳風呂は湯船に牛乳を入れるだけ! 牛乳の量は、1回につき500mL~1Lが適量です。牛乳風呂が初めての人はにおいが気になることもあるそうなので、入れる量は500mLから始めるのがおすすめ。あまりお湯が熱いと、牛乳の独特なにおいが気になる場合があるので、お湯の温度はぬるめの38~40℃にしましょう。

 

アレルギー反応がでることもありますから、事前にパッチテストなどして確認しましょう。顔を洗う際に牛乳が口に入る可能性があるので、古すぎない牛乳、長くても賞味期限切れ1週間程度の牛乳にしましょう。また、あまり古い牛乳を使うと臭いが強くなったり、肌に悪影響がある場合もあります。

 

2:観葉植物のお手入れに

賞味期限切れの牛乳は、観葉植物のお手入れにも使えます。牛乳を含ませたティッシュペーパーで、観葉植物の表面を拭くと、牛乳の脂肪分の効果でつやが出ます。また、水で薄めた牛乳をスプレーで吹きかけると、害虫の駆除にもなります。ただし、大量に吹きかけると、植物の成長を阻害する場合もあるので注意が必要です。朝拭いたら夕方には水を含ませたティッシュペーパーなどで拭きとりましょう。

 

3:トイレのお掃除に

トイレのお掃除にも使えます。使い方はとっても簡単! 賞味期限切れの牛乳を直接トイレにかけ、ブラシでこすった後に流すだけ。古くなった牛乳から出るアンモニア成分は、汚れ落としに効果があるのだそうです。

 

4:床のワックス掛けに

フローリングのワックスとしても使えます。水で薄めた牛乳でフローリングの床を拭くと、つやが出てピカピカになります。においが気になるときは、最後に空拭きをしてください。

 

2~3日過ぎた賞味期限切れの牛乳を捨てずに利用できる方法がわかりました。美容にもお掃除にも使えるなんて、牛乳って優秀なのね! でもその前に、できるだけ捨てないで飲み切ることが大切ですよね。

 

拙速と巧遅

宮部みゆきは達者な作家だが、彼女の「ステップファーザー・ステップ」(どう訳すのだろうか。「ステップファーザー」は継父だが、それに付けた「ステップ」をどう訳すのか。「段階」か? 「階段」か?)の中に、どうやら言葉間違いではないか、という部分を先ほど見つけたので書いておく。それは

「この商売に拙速はありえない」

という文で、「この商売」とは泥棒である。この段階で、頭に「?」が浮かんだ読者も多いかと思う。そしてたぶん、それは男性読者である。女性読者は特に何も疑問に感じないだろう。
で、前の一文が言葉間違いであることが、次の一文から分かる。それは、こういう文だ。

「スピードがすべてに優先する」

ここまで来ても、まだどこがおかしいか分からない読者もいるだろう。そして、繰り返すが、それはたぶん女性読者である。
なぜなら、「拙速」とは、確か「孫子」に出て来る重要語で、「速いが拙い」ことであり、これを孫子は「戦争では速さこそが大事で、巧みでも遅いのはダメだ」という文脈で言っているのである。確か「軍(いくさ)は拙速を重んずれども巧遅を尊ばず」だったか。
つまり、宮部氏の文章のように「拙速はありえない」という文に続けて「スピードがすべてに優先する」は矛盾した文章になるわけである。
で、私が、この文章の矛盾に女性読者は気づかない人が多いのではないか、と言ったのは、女性はたぶん軍略とか兵学にまったく興味を持たないのではないか、と思うからだ。古来、一人も女性軍学者や女性戦略家はいなかったのではないか。その反対に男というのは「戦争のゲーム性」に大喜びをする小児性があるのである。
で、編集者が男性だったら、宮部氏の文章の矛盾に気づいただろうが、私の推測では編集者も女性で、だからふたりともこの文章の矛盾に気づかなかったわけだ。
この「謎解き」ができたことのほうが、私には小説そのものより面白かった。北村薫的な「日常の謎」とその解明である。
まあ、宮部氏も架空の女性編集者も「拙速」の「拙」を否定語と思って「速くないこと、遅いこと」の意味だと誤解したのだろう。