拙速と巧遅
宮部みゆきは達者な作家だが、彼女の「ステップファーザー・ステップ」(どう訳すのだろうか。「ステップファーザー」は継父だが、それに付けた「ステップ」をどう訳すのか。「段階」か? 「階段」か?)の中に、どうやら言葉間違いではないか、という部分を先ほど見つけたので書いておく。それは
「この商売に拙速はありえない」
という文で、「この商売」とは泥棒である。この段階で、頭に「?」が浮かんだ読者も多いかと思う。そしてたぶん、それは男性読者である。女性読者は特に何も疑問に感じないだろう。
で、前の一文が言葉間違いであることが、次の一文から分かる。それは、こういう文だ。
「スピードがすべてに優先する」
ここまで来ても、まだどこがおかしいか分からない読者もいるだろう。そして、繰り返すが、それはたぶん女性読者である。
なぜなら、「拙速」とは、確か「孫子」に出て来る重要語で、「速いが拙い」ことであり、これを孫子は「戦争では速さこそが大事で、巧みでも遅いのはダメだ」という文脈で言っているのである。確か「軍(いくさ)は拙速を重んずれども巧遅を尊ばず」だったか。
つまり、宮部氏の文章のように「拙速はありえない」という文に続けて「スピードがすべてに優先する」は矛盾した文章になるわけである。
で、私が、この文章の矛盾に女性読者は気づかない人が多いのではないか、と言ったのは、女性はたぶん軍略とか兵学にまったく興味を持たないのではないか、と思うからだ。古来、一人も女性軍学者や女性戦略家はいなかったのではないか。その反対に男というのは「戦争のゲーム性」に大喜びをする小児性があるのである。
で、編集者が男性だったら、宮部氏の文章の矛盾に気づいただろうが、私の推測では編集者も女性で、だからふたりともこの文章の矛盾に気づかなかったわけだ。
この「謎解き」ができたことのほうが、私には小説そのものより面白かった。北村薫的な「日常の謎」とその解明である。
まあ、宮部氏も架空の女性編集者も「拙速」の「拙」を否定語と思って「速くないこと、遅いこと」の意味だと誤解したのだろう。
「この商売に拙速はありえない」
という文で、「この商売」とは泥棒である。この段階で、頭に「?」が浮かんだ読者も多いかと思う。そしてたぶん、それは男性読者である。女性読者は特に何も疑問に感じないだろう。
で、前の一文が言葉間違いであることが、次の一文から分かる。それは、こういう文だ。
「スピードがすべてに優先する」
ここまで来ても、まだどこがおかしいか分からない読者もいるだろう。そして、繰り返すが、それはたぶん女性読者である。
なぜなら、「拙速」とは、確か「孫子」に出て来る重要語で、「速いが拙い」ことであり、これを孫子は「戦争では速さこそが大事で、巧みでも遅いのはダメだ」という文脈で言っているのである。確か「軍(いくさ)は拙速を重んずれども巧遅を尊ばず」だったか。
つまり、宮部氏の文章のように「拙速はありえない」という文に続けて「スピードがすべてに優先する」は矛盾した文章になるわけである。
で、私が、この文章の矛盾に女性読者は気づかない人が多いのではないか、と言ったのは、女性はたぶん軍略とか兵学にまったく興味を持たないのではないか、と思うからだ。古来、一人も女性軍学者や女性戦略家はいなかったのではないか。その反対に男というのは「戦争のゲーム性」に大喜びをする小児性があるのである。
で、編集者が男性だったら、宮部氏の文章の矛盾に気づいただろうが、私の推測では編集者も女性で、だからふたりともこの文章の矛盾に気づかなかったわけだ。
この「謎解き」ができたことのほうが、私には小説そのものより面白かった。北村薫的な「日常の謎」とその解明である。
まあ、宮部氏も架空の女性編集者も「拙速」の「拙」を否定語と思って「速くないこと、遅いこと」の意味だと誤解したのだろう。
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