武田双雲の字

青天を行く白雲のごとき浮遊思考の落書き帳
ちょっと珍しい不倫マンガといえば、SFと不倫の設定をからめた、米代添『あげくの果てのカノン』(小学館)だろう。
クラゲに似たエイリアンとたたかう特殊部隊の一員・境宗介は、妻帯者であるにもかかわらず、高校時代からストーカー気味に境を偏愛している主人公・高月かのんと密会するようになる。
境はエイリアンと戦うたびに身体をひどく損傷するが、“修繕”と呼ばれる再生技術によって元に戻る。しかし“修繕”で身体が変化するたびに嗜好、つまり心も少しずつ変わっていってしまう。
境の妻・初穂は、境に対して、“修繕”で心変わりが進むのは仕方ないよねと言いながら、「……だけどね、勘違いしないで? そんな一時の感情より、『結婚』の方がね、ずうっと重いの。わかってるわよね…?」と諭し、不倫の連絡道具である境のスマホを静かに味噌汁に浸けるのだった。
境は、初穂のいうことを「正しい」としつつ、自分の気持ちを「誠実に」初穂に伝える。
「だけどもう…違うんだ。勝手なことを言っているのはわかってる。これがおかしいことも…君を傷つけることも……だから君の正しさにはこたえられない。」
初穂はそれを聴きながら、「宗介の好きだったところ… 誠実に、真摯に考え、言葉を紡いで、真っすぐにそれを、語りかけてくれるところ…その彼が今、目の前にいる。」と絶望する。
自分が好きだったはずの「誠実さ」という境の美点が、不倫を正当化する道具になっちゃっているのである。
結婚とは「変わらない」ことであり、不倫とは「変化する」ことである。だが、「変わらない」ことがこの場合は「正しい」かもしれないが、「変わらない」ものなどない。だから、「変化する」ということ、つまり不倫こそが「自然」で「誠実」なものだ――あれ……? なんかおかしくねえか?
おーい。初穂ー。もしもーし。「キミも好きだけど、あの娘を好きな気持ちもホンモノなんだよ!」って、よくある不倫の陳腐な言い訳だから! それ「誠実」でも「真摯」でもなんでもないから!