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独楽帳

青天を行く白雲のごとき浮遊思考の落書き帳

「濃厚接触文化」の起源

「ナショナルジオグラフィック」記事で、この会社は科学的記事の取材を名目としたスパイ活動をしていると私は見ているが、時々面白い科学記事を書くことはあるし、素晴らしい写真撮影技術を持っているのは良く知られている。


(以下引用)


感染の原因、私たちはなぜ知らない人と握手するのか?

平和の意思表示? 細菌を共有できるほど相手を信頼している証という説も

2020.03.18
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紀元前9世紀、バビロニア人と握手をするアッシリア王シャルマネセル3世をかたどったレリーフ。握手は古代の美術品にたびたび登場するモチーフだ。(PHOTOGRAPH BY DEAGOSTINI, GETTY)
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 私たちははるか昔から、友情を示したり、商取引を成立させる際に、握手やキス、ハグをしてきた。ただし、他人に触れるという行為は、不適切なものも相手に伝えてしまう。

 新型コロナウイルスの感染者が増えるなか、フランスでは国民的な習慣となっている頬へのキスを当面控えるようにとの警告が発せられた。世界中のビジネスの場では、握手のかわりにひじをぶつけ合う挨拶が採用されている。

 知らない人と触れ合うこうした習慣は、いつどのように始まったのだろうか? かつての感染症の流行の際に変化はあったのだろうか?

 握手の起源として有力な説は、平和の意思表示として始まったというものだ。互いの手を握るという行為は、武器を手にしていないことの証になり、その手をゆさぶることで、相手が袖の中に何も隠していないことが確認できる。

 世界各地に残る古代の壺や墓石、石版などには、数多くの場面で握手のモチーフが登場する。結婚の場面はもちろん、神々の契約、戦士が戦いに赴く場面、死者が死後の世界に到着する場面にも、握手が描かれている。文学作品である『イーリアス』や『オデュッセイア』にも登場する。

 一方で、握手はその万能さゆえに、描かれている場面の解釈が難しくなる。「握手は今日でも人気のあるモチーフです。現代人もまた、握手を複雑かつあいまいなものだと感じているからです」。美術史家のグレニス・デーヴィズ氏は、古典美術における握手の使われ方についてそう述べている。

数千年前から、握手はさまざまな目的のために用いられてきた。写真は遊説中に支持者と握手を交わすロバート・F・ケネディ上院議員。(PHOTOGRAPH BY BILL EPPRIDGE, THE LIFE PICTURE COLLECTION/GETTY)
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 米国で握手が広まったのは、18世紀のクエーカー教徒の影響が大きいと思われる。階級や社会的な序列に関係なく振る舞おうとしていた彼らは、当時一般的だったお辞儀や帽子を脱ぐといった仕草よりも、握手の方が挨拶としてより民主的だと考えた。

「クエーカー教徒は仲間内で握手を習慣としており、それを今日の私たちと同じように、地位に関係なく誰にでも用いるようになった」。歴史家のマイケル・ザッカーマン氏はそう書いている。


 握手が廃れない理由を科学的に説明しようとする試みもある。2015年、イスラエルの研究者たちは、数百人にのぼる見知らぬ人同士の握手を撮影するという実験を行い、参加者の4分の1近くが、握手の後で手の匂いを嗅いでいたことを発見した。これについて研究者らは、握手は人間が無意識のうちに化学信号を検知するために行っている行為であり、他の動物たちが互いの匂いを嗅ぐのと同じ、コミュニケーションの手段なのかもしれないとの仮説を立てている。

 挨拶としてのキスにも、同じく豊かな歴史がある。キスは初期キリスト教に取り入れられ、宗教儀式の中で用いられた。「『ローマ人への手紙』の中で、聖パウロは信者たちに『きよい接吻をもって、互いにあいさつをかわしなさい』と命じている」と、アンディ・スコット氏は自著『One Kiss or Two: In Search of the Perfect Greeting(キスは1回、それとも2回:完璧な挨拶を求めて)』に書いている。中世において、キスは忠誠のしるしとして、また財産の移譲などの契約を結ぶために用いられた。(参考記事:「なぜ男は“ウェット”なキスをするのか」

 フランス語で「ラ・ビズ(la bise)」と呼ばれる頬への軽いキスは、現在、世界のさまざまな地域で定番の挨拶となっている。「ビズ」の語源は古代ローマにあると言われる。ローマではキスの種類によってそれぞれ個別の呼称があり、比較的穏やかなキスは「バシウム(basium)」と呼ばれた。パリでは、頬へのキスの回数は2回が一般的で、プロバンス地方では3回、ロワール渓谷では4回となる。頬へのキスはエジプト、ラテンアメリカ、フィリピンなどでも普及している。

 14世紀のペスト流行の際にラ・ビズの習慣は廃れ、復活したのは400年後のフランス革命の後だと考えられている。2009年にも、豚インフルエンザのせいでラ・ビズは一時的に行われなくなった。2020年2月末、コロナウイルスの拡大を受けて、フランス保健相はこう呼びかけて挨拶のキスを控えるよう求めた。「社会における物理的接触を減らすことが求められており、これにはキスの習慣も含まれます」

 ロンドン衛生熱帯医学校の行動科学者、ヴァル・カーティス氏は自著『Don't Look, Don't Touch(見るな触るな)』の中で、挨拶としてキスや握手が行われる理由のひとつとして、細菌を共有できるほど相手を信頼していることを示すというものが考えられると書いている。だからこそ、公衆衛生上の懸念事項がある時期とない時期に応じて、こうした習慣は流行したり、廃れたりするわけだ。(参考記事:「ペットとのキスはどれほど危険なのか?」

 看護師のリーラ・ギブン氏は、1929年に学術誌『American Journal of Nursing』に投稿した研究において、腕を高く上げて指を軽く触れるそれまでの挨拶が廃れ、握手が好まれるようになったことを嘆いている。ギブン氏は、握手が容易に細菌を拡散させることを示す過去の研究を引用しつつ、手は「細菌の媒介者」だと警告した。

 この研究の結論としてギブン氏は、友人と挨拶を交わす際には、当時の中国人が挨拶に用いていた自分の両手を組み合わせる仕草を勧めている。「そうすれば、少なくとも自分の持つ細菌を自分のもとから出さずに済みます」と、論文にはある。

参考ギャラリー:新型コロナ、非常事態ベネチアの厳しい現実、写真7点(画像クリックでギャラリーへ)
ベネチアのリアルト橋を消毒する作業員。前日の20年3月10日、イタリアのコンテ首相は新型コロナウイルスの感染拡大を抑えるため、イタリア全土に移動制限を適用するという先例のない措置を宣言した。(PHOTOGRAPH BY STEFANO MAZZOLA, AWAKENING/GETTY IMAGES)

文=NINA STROCHLIC/訳=北村京子









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