では血圧を急変動させないためには、具体的にどんな種類の酒を選ぶべきか。秋津医師は語る。
「先にも触れたように、酒を飲めばいったんは血圧が下がります。でもこれは一過性のこと。長期にわたって飲み続ければ、やはり動脈硬化は避けられません。飲むのなら、動脈硬化を予防するポリフェノールが多く含まれる赤ワインなどを選ぶほうがいい」
1992年、フランスのセルジュ・ルノー博士が、大量に脂肪食を摂取しているにもかかわらず、フランスでは心臓病やガンによる死亡率が他国に比べて低い理由は、国民が多飲する赤ワインの中に含まれるポリフェノールに抗酸化作用と血液凝固抑制作用にあることを発表。赤ワインは一躍注目されることになった。
「赤ワインを飲んだからといって動脈硬化が治るわけではありませんが、赤ワインは酒の中でも動脈硬化を抑える成分が多い。あとはアミノ酸を含んだ日本酒。これも同様に動脈硬化予防作用が期待できるので、飲むのなら蒸留酒よりも醸造酒のほうがお勧めです」(秋津医師)
滝澤医師も「アミノ酸をたっぷり含んだ『天之美禄』である日本酒が一番」と断言する。
「日本酒を飲むと、他の酒類を飲んだ時より長時間体温が2度ほど高い状態が続き、皮膚表面の血液循環がよくなる。頬がほんのり染まってくるのは、末梢神経が広がり毛細血管の働きが活性化するからです。また日本酒には15%程度のアルコールとアミノ酸、糖分、ビタミンなど120種類以上の栄養物質が含まれていますが、中でも3大栄養素のひとつであるアミノ酸には血管を拡張させる作用が。アミノ酸が2〜10個程度つながったペプチドは血圧を降下させる作用があります」
人間は血液により脳細胞や心筋へ栄養物を供給しているが、年を取ると血液の溶解作用が弱まり、血小板が凝集することで血栓ができる。結果、血液の輸送を阻害してしまうのだ。
日本酒には血栓を溶解する酵素であるポリフェノールやウロキナーゼ、プラスミノーゲンなどが含まれているので、血液をサラサラにしてくれて血圧の急変動も防ぐ。だから、動脈硬化の防止に効果的なのだという。
「動脈硬化を引き起こす大きな要因のひとつが、動脈内壁に沈着した悪玉コレステロールの酸化です。日本酒に含まれるポリフェノールには悪玉コレステロールを酸化させないビタミンCやE、グルタミンなどの抗酸化物も多く含まれています。つまり、日本酒を飲んでいれば、血管も『ほろ酔いついで』に若返るというわけです」(滝澤医師)
ただし、空腹での飲酒は血圧を急変動させる呼び水になるので注意を。胃が空っぽだとアルコール成分が胃で急速に吸収され、血中アルコール濃度が急上昇。肝臓での分解が追いつかなくなると血圧が大きく変動し、悪酔いの原因にもなるのだ。
ならば、この目線で「つまみ」にもこだわってみよう。
酒のつまみと言われて、まず思いつくのが、この季節なら枝豆だ。枝豆のたんぱく質にあるメチオニンはアルコールの分解を助け、肝機能の負担を軽くする。
さらに枝豆は、高血圧の原因となるナトリウム(塩分)の排出を助け、利尿作用を促すカリウムを多く含んでいる。血圧適正化の意味において、実に理にかなった食べ物と言えよう。できればお皿に山盛りの量を用意しておきたい。
加えて、栄養満点でアルコール代謝にも絶大な効果を発揮するのがトマトだ。ある実験では、酒を飲んでいる時にトマトを摂取することで、アルコールの代謝に関わる酵素が活性化し、体内アルコール濃度や体内にとどまる量が抑えられることが明らかになっている。つまみとして楽しむのはもちろんのこと、トマトジュースをチェイサーにしてみたり、焼酎割りで楽しむのもアリかもしれない。
あるいは、お酒の前にコンソメスープやポタージュスープを飲んでおくと、血圧の急変動を抑えてくれる。自動販売機やコンビニなどで缶入りの温かいスープを手に入れておくといいだろう。