これは欺瞞的記事だろう。
稲森和夫は、米国進出した時の現地マネージャーにストックオプションを渡すかどうかを言っているのに、記事全体では、まるで「社員(一般社員)に」ストックオプションを渡すことに稲盛が否定的だったように受け取れる書き方になっている。つまり、岸田の場合と稲盛の場合は話が全然違うが、それを錯覚させる欺瞞である。
マスコミ情報ではこの手の欺瞞が多いので、注意すべきである。もちろん、書いている当人が単なる馬鹿という場合もある。
(以下引用)
「経営の神様」の考えは?
ストックオプションとは、自社株購入権のことだ。「ストック」(STOCK)は「株式」を意味し、「オプション」(OPTION)とは、「(定められた価格で購入できる)権利」を指す。自社株購入の権利を与えられた社員は、株価が上昇した時点で(会社の株式を取得する)権利を行使して売却すれば、多額の利益(キャピタルゲイン)を得ることができる。
ストックオプションは会社の業績と連動しているため、理論的には、ストックオプションを与えられた従業員のモチベーションを高め、業績を向上させるはずである。米国で広く普及したのは、与えられた仕事を最小限の労力で終わらせて帰るような従業員に対して、モチベーションを与えるのではないかと考えたからであろう。
自分たちが頑張って企業の業績を上げれば、株価が上がり、自分の持っている株の価値が上がることになる。反対に、怠けていては企業の業績が下がって株価が下がり、自分の資産も減少してしまう。この株価に基づく報酬体系を導入すれば、従業員は株主にもなり、企業を成長させようとする共通の目標を持つことができるとされている。
他にもメリットとして、創業間もない企業の報酬に使える点が挙げられる。そうした企業の手元にはお金がなく、高額の現金報酬を役員や従業員に提示することが難しい場合が多い。しかし、将来性さえうまくプレゼンテーション(ストックオプションでいずれ多額の報酬を得られる)することができれば、優秀な人材を集められる。
一見して給料が低い(例えばスタートアップ)仕事であっても、株価が上がったり、上場したりすることで、長い目で見れば良い選択肢になる可能性がある。米国において経営者は、給与や現金ボーナスよりも株式授与やストックオプションの現金化で多額の報酬を得ているケースが多い。
また、株価が右肩上がりを続けている場合は、従業員の離職を防いだり、モチベーションの向上が期待できたりする。
給料の一部をストックオプションとして与えられる、もしくは選択できる企業は、日本においても外資系企業やベンチャー企業を中心に広がってきた。米国では、給料の代わりにストックオプションを選択できることが、特に競争が激しい雇用市場においては、優秀な労働者を獲得するための条件として当たり前のようになっている。
ところが、「経営の神様」と呼ばれた稲盛和夫氏は、ストックオプションの導入に否定的だった。今回は、その理由をご紹介しよう。
ストックオプション税制の拡充
その必要性に岸田首相が言及
岸田文雄首相は、スタートアップ支援としてストックオプションを日本に広めたいようだ。2022年9月22日(現地時間)、米ニューヨーク証券取引所での講演で、次のようにストックオプション税制拡充の必要性を説いた(カッコ内は編集部注、一部言葉の重複を削除)。
「女性と若者の活力は、日本経済繁栄の希望だ」
「第二、第三のトヨタ(自動車)やソニーは、彼らのような様々な挑戦者の気力と決意で生まれてくる。大切なのは、日本に、スタートアップを生み育てるエコシステム(生態系)を作り上げること。そのために、株の売却益を元手にスタートアップ投資を行う場合の税優遇措置や、ストックオプション税制の拡充が必要だ」
米国や英国において、ストックオプションで得たキャピタルゲインは、一定額(米国では年間1000万ドル、英国では生涯100万ポンド)まで非課税である。さらに、シンガポールや香港では金額の制限なく非課税だ。
対する日本は、売却益に20%(13~37年までは復興特別所得税が上乗せされて20.315%)の課税がなされる。この課税、非課税の違いが、日本でスタートアップが増えない原因だと岸田政権は考えたようだ。新自由主義を否定する岸田首相が掲げる「新しい資本主義」とはまったく正反対の方針に見えるが、いずれにしろ、ストックオプションを優遇しようというのが現在の政府方針といえる。
しかし、ストックオプションをもらったからといって、誰でも金持ちになれるわけではない。ストックオプションは「会社の成功に懸けることができるチャンス」でしかないことに留意が必要だ。
タイミングよく株を売ることができなければ、価値が暴落し、紙くずに等しいものになってしまうこともある。ITバブル崩壊、リーマンショック、昨年の株価下落などを背景に、会社の経営が傾き、億万長者になれると信じていた社員たちが大損をしたという話は、ちまたにあふれている。
結局のところ、保有する株があなたにとって本当の価値を持つ瞬間は、買ったときと、売ったときの2回だけだ。日々の株価の乱高下に踊らされてしまうのが人間というものだが、オプションを行使して購入した株が無価値になった場合、使った金額を回収する見込みはほとんどない。
従業員がオプションを行使してしまうと、一気にやる気をなくしてしまい、離職につながるケースも相次いでいる。昨年のように株価が上がらない市況においては、従業員のモチベーション低下は避けられないだろう。
ストックオプションの導入に
稲盛和夫氏が否定的だった理由
では、「経営の神様」と呼ばれた稲盛氏は、ストックオプションについて、どんな考えを持っていたのだろう。稲盛氏が創業した京セラが米国へ進出した際に、雇用しようとする現地の米国人からは「報酬の一部をストックオプションで欲しい」と言われることが頻発したようだ。ここで、稲盛氏の言葉に耳を傾けてみよう。
「(会社のストックオプションをくださいというような)人をマネージャーにすると、最初は一生懸命取り組みます。しかし。自分の手に負えない経営状態になると破れたザルみたいにたくさんのお金を使い、大きな赤字を出すようになります。(中略)給料をもらい、会社のお金をたくさん浪費し、多くの赤字だけを残して辞めてしまうのです」(全トヨタ夏季セミナーでの講演『「切れるマネージャー」にありがちな問題』1979年8月23日。『稲盛和夫経営講演選集1』ダイヤモンド社より)
ストックオプションが与えられると、キャピタルゲインを増やすために、短期的な株価の上昇を意図した経営を行うことが多くなってしまうようだ。さらに、企業の株価は(特に大きな企業になるほど)国全体の市況そのものに強い影響を受けることも多く、細かく改善する気がうせてしまうのだろう。少しの失敗でやる気をなくすと、一発逆転を狙って浪費したり、ストックオプションで本来もらえると思っていたお金を経費で使い込んだりしようと考えてしまう。
さらに稲盛氏は、経営がうまくいっていても、ストックオプションは経営にとってデメリットがあると指摘する。
「逆に、経営が少しでもうまくいくと、自分の報酬にことさら強い関心を示します。会社は長期的な視野に立って利益を出していかなければなりませんが、自分が株を持っていますから、株価を上げ、ひいては自分の報酬が上がるよう、目先の利益だけを優先します」(同)
本来であれば、自社株を持つことで会社の経営全般に意識が芽生え、中長期的な視野に立ってくれるだろうと期待して始めたストックオプションであっても、始めてみると、目の前の株価に一喜一憂するような現実が訪れてしまうのだろう。ストックオプションによって莫大なキャピタルゲインが得られそうなときなど、「いつ株を売ろう。さっさと売って、仕事を辞め、遊びに行こう」という心理状態になる。長く会社にとどまって会社を成長させようという気がうせてしまう。
優秀な社員ほど、会社を去っていってしまうようでは、会社の存続が危ぶまれる。稲盛氏は、京セラの米国進出に際して、日本人と同じように、企業と共に自分が成長できるということを苦労して教えていったのだった。