キャンプ時に使っていたサバイバルナイフ(刃渡り11cm)を車内に置いていたら、職務質問で検挙された——。そんな相談が弁護士ドットコムに寄せられました。
相談者は、自動車で外出することが多いそうです。ナイフ所持について、キャンプ時や調理で使うと警察官に答えましたが、「正当な理由にはならない」と言われてしまいました。
夏の時期にキャンプへ行こうとナイフや包丁を車に積んでいる人もいそうですが、法的にアウトなのでしょうか。澤井康生弁護士に聞きました。
●刃渡り6cm以上の刃物携帯には「正当な理由」が必要
——ナイフ所持・携帯は犯罪になるのでしょうか。
銃砲刀剣類所持等取締法(銃刀法)は、刀剣類(刃渡り15cm以上の刀など)の所持を禁止しています。これに加えて、刃渡り6cm以上の刃物も正当な理由がある場合を除いて携帯が禁止されています。「携帯禁止」なので、「自宅に置いておく=所持」はOKです。
刃渡り11cmのサバイバルナイフは、銃刀法上の刃物に該当し、原則携帯禁止です。刃物の携帯を禁止することで、刃物を使用する犯罪を未然に防止することが目的とされています(下級審裁判例)。
正当な理由がないにもかかわらず刃物を携帯した場合、「2年以下の懲役または30万円以下の罰金」となります(銃刀法22条、同法31条の18第2項2号)。
——刃渡り6cm未満の刃物ならどうでしょうか。
銃刀法上の刃物には該当しませんが、隠して携帯していると軽犯罪法違反1条違反(拘留または科料)となる可能性があります。
——キャンプ用として携帯していた場合でもダメなのでしょうか。
銃刀法は、刃渡り6cm以上の刃物について、「正当な理由」のない携帯を禁止しています。
正当な理由とは、一般的には刃物を購入して自宅に持ち帰るために携行する場合や登山者が登山用ナイフを携行する場合のように、刃物の携帯が職務上または日常生活上の必要性から社会通念上相当と認められる場合をいうとされています(下級審裁判例)。
職務上または日常生活上の必要性に基づき、はっきりとした特定の目的があることを要するということです。
犯罪に使用する目的で携行するのはもちろん不可ですし、犯罪目的がなくとも単に護身用として携帯したり、何かあったときに便利だからという理由で特定の目的なく携帯することは「正当な理由」として認められません。
キャンプ用ナイフを持っていた場合、本当にキャンプ目的であれば正当な理由となり得ますが、それを裏付ける客観的な状況が必要となります。
たとえば、他にもキャンプ道具一式が車に積んである、キャンプ場を予約してあるなどの具体的裏付けがある場合です。そのような状況をまったく説明できないと、キャンプ用というのは単なる弁解ではないのかと疑われてしまいます。
裁判例でも、半年前に果物を切って以降、いつか果物を切ることがあるかもしれないという漠然とした理由で果物ナイフ(刃渡り約10cm)を携帯していた場合について、正当な理由があるとはいえないとして、罰金10万円の有罪判決となった事例があります(倉敷簡裁平成30年5月29日判決)。
【取材協力弁護士】
澤井 康生(さわい・やすお)弁護士
警察官僚出身で警視庁刑事としての経験も有する。ファイナンスMBAを取得し、企業法務、一般民事事件、家事事件、刑事事件などを手がける傍ら東京簡易裁判所の非常勤裁判官、東京税理士会のインハウスロイヤー(非常勤)も歴任、公認不正検査士試験や金融コンプライアンスオフィサー1級試験にも合格、企業不祥事が起きた場合の第三者委員会の経験も豊富、その他各新聞での有識者コメント、テレビ・ラジオ等の出演も多く幅広い分野で活躍。陸上自衛隊予備自衛官(3等陸佐、少佐相当官)の資格も有する。現在、朝日新聞社ウェブサイトtelling「HELP ME 弁護士センセイ」連載。楽天証券ウェブサイト「トウシル」連載。毎月ラジオNIKKEIにもゲスト出演中。新宿区西早稲田の秋法律事務所のパートナー弁護士。代表著書「捜査本部というすごい仕組み」(マイナビ新書)など。
事務所名:秋法律事務所