日本の新規建築の劣化
(以下引用)
「私はサラリーマンとして働いて、30年以上かけて貯めてきたお金と退職金をつぎ込んで、8000万円以上のこのマンションを買いました。私も妻も60代後半なので、余生は都心から離れた場所に住みたいと思っていたんです。あの有名な不動産会社と建設会社が手掛けているから、間違いない物件だと安心していました。でも、それは大きな間違いでした。苦労して手に入れたタワマンは欠陥だらけだったんです……」
本誌の取材に答えた購入者のTさんはそう声を震わせた。
今、大規模な再開発が行われている東京都小金井市に聳(そび)える駅直結の超高級ツインタワーマンション『プラウドタワー武蔵小金井クロス』をめぐって大騒動が起きている。スーパーゼネコンの清水建設が施工を担当し、売り主は大手デベロッパーの野村不動産。総戸数は716戸で、価格は4LDKで最高1億9000万円だ。Tさんが言う。
「欠陥が明らかになったのは今年2月下旬でした。上階の足音がうるさいということで、管理組合の一人が民間検査会社の『日本建築検査研究所』に調査を依頼したんです。最初は防音設備にだけ問題があると思っていたのですが、調査で次々に他の欠陥も見つかったんです」
Tさんが本誌に提供した『建物調査報告書』は、全44ページにわたって重大な「施工不良」の実態を明らかにしていた。本誌は調査を担当した建築検査士の岩山健一氏に取材を申し込み、話を聞いた。
「私が調査して見つかった欠陥は①防音設備 ②耐火設備 ③耐水設備の主に三つです。①については上下階の間にある二重床の支持脚(階を持ち上げるための脚)に遮音性のゴムが使われていない箇所が発見されました。その結果、音が響いてしまっていたんです。②は全戸に付いているメーターボックス内に使う石膏ボードの貼り方に問題がありました。石膏ボードを貼り付ける際に打つタッカー(留め金)の間隔が、国土交通大臣が定める基準を満たしていませんでした。
ここにはガスの配管などが入っています。ボードの固定が甘いと、発火した際に延焼が起きやすくなります。③はトイレ内の手洗い付近の壁には耐水石膏ボードを使用しなければいけないのに、普通の石膏ボードを使用していたんです。当然、湿気に弱くなり、腐食の原因になります」
3月27日には野村不動産と清水建設の責任者が同席して、説明会が開かれたが、Tさんの不信感は深まるばかりだったという。
「両社の責任者は、専門用語ばかりを並べた説明で購入者を困惑させたり、 『手元が暗くて確認が不十分だった』『チェック項目から抜けていた』などと、呆(あき)れた言い訳を繰り返すばかりでした。補償についても、うやむやなままで、『資産価値を守るため』と言って購入者に口止めもしました」
1週間後、両社はマンションの理事会で「施工不良」を認めて、購入者に謝罪したものの、住民の疑念は晴れていない。「両社は『設計図通りに変更する』と言い、補償はこれから協議をしていく予定です。しかし、一度の調査でこれだけ問題が出てきたので、他にも重大な欠陥があるんじゃないかと不安が募(つの)るばかりです」(Tさん)
前出の岩山氏もこう指摘する。
「そもそも購入前に見せられていた設計図通りに工事が行われていなかったことが大問題です。手抜き工事も甚(はなは)だしいと言っていいと思います。欠陥が見つかった場所だけを調べて、問題を解決したというのは無理があるでしょう。とくに法令基準を満たしていない耐火設備に関しては、目視で確認できない部分があります。一度販売を中止して、他に欠陥がないか、未入居の部屋も解体するなどして、大規模な検査が行われるべきです」
しかし、驚くことに問題が解決していないにもかかわらず、野村不動産は物件の販売を続けているという。一連の問題について野村不動産と清水建設に質問状を送付したところ、双方から次のような回答があった。「個人資産に係ることであるため、コメントは差し控えさせていただきます」購入者は日々の暮らしを脅(おびや)かされている。一刻も早い誠実な対応が求められる。
https://news.yahoo.co.jp/articles/a1866698fb0ef4b7695fe99ea37a99cae7a0500b