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独楽帳

青天を行く白雲のごとき浮遊思考の落書き帳

老化と「八味地黄丸」

「八味地黄丸」についての解説である。かすみ目のために読書が妨げられるので服用を考えているが、40日分で約4000円とかなり高い薬で、購入はしたがまだ使い始めていない。副作用が心配だ、ということもある。かすみ目のほかに、足の冷えや口渇などの症状も少し前にあったが、それは今は無くなっているので、現在は薬を使う強い必要性も無いわけである。まあ、もうしばらくは様子見か。




はじめに

私たちはいくつになってもこころは10代のままですが、からだは確実に老化していきます。 高齢化社会の到来とともに、我が国では60歳以降も働き続けねばならない人が増えています。 筆者もおそらくその1人でしょう。
漢方医学には加齢に対応していく考え方とお薬があります。

腎虚(じんきょ)

腎虚とは、加齢あるいは病によりこれらの働きが低下した状態を意味する漢方医学の病態概念です。 高齢化に伴う種々の疾患を、ひとつの病態として捉えようとしています。
生命活動の根源的エネルキーとされる「気」は、誕生に際して父母からあたえられる「先天の気」と誕生後に呼吸、 食物などから得る「後天の気」の二つに大別されますが、 腎は「先天の気」を管理する機能単位と考えられています。
その働きは、

  1. 成長・発育・生殖能、
  2. 骨・歯牙の形成と維持、
  3. 水分代謝の調整、
  4. 呼吸能の維持、
  5. 思考力・判断力・集中力の保持

とされています。いずれの機能も加齢とともに低下していきます。
この腎虚に対する漢方薬が八味地黄丸なのです。

使用頻度

数あまたある漢方薬の中でも八味地黄丸の使用頻度の高さは抜きん出ています。 漢方を専門とする5施設で、1997年4月のある2週間において、すべての外来処方を調査して、八味地黄丸を処方した回数を数えてみました。 その使用頻度はすべての漢方薬の中で最も高く、男性では40歳代の10%、50歳代の20%、60歳代の30%と加齢により上昇し、 70歳以降減少しました。一方、女性での使用頻度は50歳代10%、70歳代20%、80歳代になってようやく30%でした。 すなわち、明らかな性差が認められました。
この薬は古来より「老人の薬」として知られてきましたが、高齢化社会の現代において、 とくに男性に関しては40~50歳代という「働き盛り」の薬になっていたのです。

構成生薬と適応

八味地黄丸はその名の通り、八つの生薬から構成されています。 2000年前の医学書である金置要略(きんきようりゃく)には、「地黄(じおう)8両(1両は1グラム)、 山薬(さんやく、山芋のこと)、山茱萸(さんしゅゆ)各4両、沢瀉(たくしゃ)、茯苓(ぶくりょう)、 牡丹皮(ぼたんぴ)各3両、桂皮(けいひ)、附子(ぶし)各1両、これを蜜に和して桐の実大の丸薬にして、 酒にて15丸から25丸を1日2回服用」と記載されています。
地黄、山薬、山茱萸の3つで全体の7割を占めます。山薬は山芋、つまり良質のでんぷんをたくさん含んでいます。 地黄、山茱萸も準栄養剤的な生薬といえましょう。 これら精力増強作用のある生薬に、気をめぐらす桂皮、血をめぐらす牡丹皮、水を調整する茯苓、沢瀉が加わります。 高齢者の保健薬として意義のありそうな内容です。
適応は同書には「虚労(きょろう)」と記載されています。虚労とは、いくら睡眠をとっても拭うことのできない疲労感、倦怠感を表現しています。
「老化は足から」と言われますが、一定の年齢を過ぎると、加齢による衰えは下半身より始まります。 八味地黄丸の適応はまさに下半身の働きに関連しています。 具体的には、下肢痛、しびれ、多尿、夜間頻尿、腰痛、腰以下の無力感などです。 これ以外の症状としては呼吸機能の低下が重要な目標です。 服用しますと足腰の不安が減って元気に動くことができるようになります。
八味地黄丸は種々の薬の基本薬になっています。 これに牛膝(ごしつ)、車前子(しゃぜんし)を加えた牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)は、 下半身の疼痛・しびれの強い例あるいは浮腫例に用います。 この八味より桂皮、附子を除いた六味丸(ろくみがん)は、足のほてり、口の乾きの強い例に用います。
副作用として、服用例の約1割に胃もたれ、食欲低下が見られます。 地黄のためと推測されます。胃腸の弱い症例には注意が必要です。ときに湿疹をきたす例もあります。

作用

  1. 微小循環を改善する作用
    しびれ、疼痛を改善します。この薬は炎症を抑えるというよりは、 局所の循環や赤血球が数個通れる程度の微細な循環(微小循環)を改善して、 末梢運動神経の機能が回復(運動神経伝導速度が上昇)したとする報告があります。
  2. 認知症に対する作用
    多数例の高齢者に用いて認知機能と日常活動度が改善したとの報告があります。 筆者の経験では、軽症例には良い場合がありますが、アルツハイマー病等の重症例にはそう効くものではありません。
  3. 糖尿病に対する作用
    合併症を予防、軽減します。糖尿病は神経、腎臓と眼に合併症をきたすことで重大な疾患ですが、 この薬を長く服用していると、神経障害と腎症がより軽度になると報告されています。 血糖が高い状態になると、酸化的ストレスが高まり、活性酸素が増え、ラジカル生成が増して、 血管内皮を始め種々の組織に障害を与えます。八味地黄丸にはラジカルを捕捉して減らす機序が考えられています。 ラットを用いた実験において腎臓の障害が改善されたことも報告されています。
  4. 呼吸機能改善作用
    慢性のいきぎれを改善します。慢性に喘息発作をくりかえす患者に12週間服薬させたところ、 閉塞性障害を反映するピークフロー値が約50L/min上昇し、喘息状態の改善が認められました。 発作そのものを改善させる強力な作用はありませんが、 冷気や運動などの刺激により発作を誘発していた人が発作を起こしにくくなる予防効果を得ることができます。 ただし、在宅酸素療法を要するほどの重症例は適応ではありません。
  5. 下垂体副腎系に対する賦活作用
    八味地黄丸を服用していると、「元気になる」患者さんが少なくありません。 デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)は副腎皮質ホルモンのひとつで、思春期に急増し、 以後年間3%ずつ低下していくため、老化の指標として知られています。 このホルモンにはストレスにより障害された組織の修復と回復に働く作用、 すなわち抗潰瘍、抗糖尿病、抗肥満、抗動脈硬化、免疫賦活などの作用があると考えられています。 八味地黄丸を服用すると、このホルモンが賦活されることが報告されています。 加齢によるストレスに強くなるのです。

運動

加齢と運動の関係は古くより指摘されています。
「流水は腐らず。戸ぼそは虫食わず」。
戸ぼそは、開き戸の戸棚の軸になるところ、動くところです。戸棚は腐っても軸になるところは腐らないという意味です。 要するに動いている部分は腐らない、流水も腐らない、虫も食わないということです。
「一身動けば、一身強まる」、「人間、足からあがる」、「隠居三年」。いずれも下肢を動かす重要性を示す諺です。
車社会では歩く機会が減少します。高齢者ならずとも、日常歩くことが勧められています。
“健康日本21”では1日平均歩数男性9,200歩、女性8,300歩程度が目標とされています。
仕事で下半身に衰えを感じるようになったら、まず運動してみましょう。 そして回復が思わしくなければ、八味地黄丸を検討してみてはいかがでしょうか。

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