2021年05月27日 (木) 12:05
田舎暮らしで困ることといえば、豊かな自然につきもの有害事象だ。
中津川市の山奥に移住して、もう18年になるのだが、これまで本当に困ったことと対策を挙げてみたい。
私が中津川市の北西部の山岳地帯の小さな村に移住したのは2003年だった。
敷地は、ほぼ雑木林で、わずかな平地はヘイケボタルが繁殖する湿地、あとは傾斜20度以上の林だ。だから、家を建てるにしても、畑地を作るにしても、最初は雑木を伐採し、根を除去するのに心底苦労した。
むろん自然林ではなく放置された二次林なのだが、柿や栗や檜、赤松、それに大量のツツジなどに覆われていた。
木を切るのは簡単だが、根を除去するのは簡単ではない。ユンボやクレーンがあれば良いが、すべて人力でやった。今なら、レンタカーでクレーン車かユンボを借りなければ無理だ。それも250(2.5トン)以上の自重がないと径20センチの木の根を引き抜くことはできない。
ない場合は、タコという道具に、3メートルの鉄パイプを三本差し込んで、2トン以上のチェーンブロックでワイヤーをつけて引き抜く。これが、とんでもない重労働だ。
鉄パイプは地面にめり込むので、大きな材木の靴を履かせる。根の周囲をスコップで掘って底面まで露出させ、ワイヤーをセットして引っ張るのだが、大きな根だと一日がかりでも引き抜くのは困難だ。
一番大変なのが柿の木だ。大きな主根が横に延びていて、掘り出すだけで半端な労力ではない。
こんな作業を百回以上繰り返して、100坪ほどの空地を作り、畑や宅地を造った。だが、作りたての畑地では農作物は育たない。数年間放置し、鶏糞を入れて耕運し、雑草を生やして土を農作に慣れさせないと無理だ。
また、線虫被害を受けた赤松の大木が枯れて、いつ倒れてくるか分からないので、高ハシゴをかけてウインチワイヤーをかけ、チェンソーで数十本切り倒したが、もしも近所の家に当たれば、数十万円という大きな弁償額になる。
民法717条は、枯死樹木を放置して近隣に損害を与えたときの賠償責任を定めている。安易に土地を購入するのはいいが、敷地内の立木の管理をしないでいると法的な賠償責任が降りかかってくる。
2007年くらいまでは、マムシと巨大なムカデが目につく程度で、有害生物に苦しんだということはないが、リーマンショックの年を境に、近隣の生物相が大きく変わった。
それまで姿を見かけなかった有害獣、猪・アライグマ・ハクビシン・熊・鹿などが大量に人里に現れ、農地を襲いはじめたのだ。
それまで害獣防除など必要なかった農地が、主に猪によって、のきなみ激しく荒らされて、わが村では猪対策をしなければ農作が不可能になった。私の畑も猪に一晩で全滅させられた。近所では、毎年カボチャを作っていたおばあさんが、とうとう放棄してしまった。
スイカなどの果物を作れば、ハクビシンやアライグマが大喜びで全滅させる。彼らが現れてから、それまでの野山の主だった、野ウサギ・狸・キジなどがいなくなった。アライグマは凶暴なので、ウサギも猫も食べてしまう。
だから、農地は見渡す限り、電柵と猪防御用のメッシュ鉄筋の塀で覆われた。我が家も5ミリのメッシュ鉄筋を張り巡らしている。
メッシュ鉄筋は、1m×2mで350円程度、敷地の周囲に並べて、杭と針金で固定する。杭は必ずコールタールをべた塗りしておかないと1年持たずに腐ってしまう。
周囲に危険な突起が突き出しているが、これが猪の飛び越えを防止する。子供が遊ぶ場所に設置すべきではない。非常に危険で深刻な事態を招く可能性がある。
だが、猪侵入を防ぐには電柵より確実だ。電柵は、草が伸びると、すぐ電池が劣化する。安全性を第一義に考えねばならない場所では、電柵以外の選択肢はない。
同時に、それまで見かけなかったカメムシ・テントウムシダマシなど害虫が大量に現れるようになった。こいつらは、エダマメやピーマンなどを食い荒らす。馬鈴薯や茄子などナス科の野菜を育てるには、農薬がないと事実上、不可能になったのも、この頃だ。
(カメムシは、昨年から劇的に減少した。理由不明)
うちの場合は、はるかに深刻で、2011年、フクイチ事故放射能汚染を境に、それまでいなかった目に見えないほど細かいユスリカが膨大に湧くようになった。
人口3000人のわが村では、2011年事故後、数ヶ月で実に14名もの心不全死者が出た。おそらく、フクイチ事故の短寿命核種の汚染が、元々日本一の高線量ガンマ線地帯だった、この村の人々を選択的に襲ったのではないかと思った。
このユスリカは、その後劇的に増え、2014年には、このせいで私は間質性肺炎を発症してしまった。呼吸のたびに、ブツブツバリバリと音がするようになり、呼吸機能は以前の半分に落ち、何をするにも息切れがして、一時は人生への積極的な意欲がほぼ失われた。
家はゴミ屋敷となったが、現在、やっと少しずつ回復している。
ユスリカの発生は、デミリンという羽化防止剤を使えば抑制できることを知ったのは、深刻な発症後だったが、このおかげで、やっと大発生を抑えることができた。
ちなみに、間質性肺炎=IPFは、医学常識によれば治癒不能とされて、最長6年程度で死亡することになっているが、7年を経ても私は死なないでいる。しかし、呼吸力は元のレベルには戻らない。ただ苦痛に慣れただけだ。
たぶん、発症後、呼吸力を取り戻すために、ほぼ毎日、苦しい思いをして山歩きを重ねたことで、死なずにすんでいるのだろうと思っている。間質性肺炎には呼吸トレーニングが絶対不可欠だと知った。
医療に頼らないことも大きい。私は医者を信用していないので原則行かない。だから全身に4カ所も骨折偽関節を抱えている。
2015年頃から、毎年、ムカデやマムシ対策を迫られるようになった。ムカデが家に侵入し、ときには布団のなかにまで入り込んで噛まれることがある。
実は、このブログの動機は、先週、ムカデに噛まれたことからだ。
ヤツは、玄関の靴の中にいた。気づかずに裸足で履いたら、左足の小指に強い痛みを感じた。それまでも布団のなかで噛まれたことがあったが、比較にならないほど激しい痛みだった。まるで痛風発作が皮膚で起きたみたいだった。
あわてて脱いで靴の中を見ると、10センチを超えるムカデが鎮座していた。
何度も噛まれているので、セオリー通りに、すぐに風呂場で45度の湯をシャワーから流して15分ほど患部を洗い続けた。これで痛みは少しだけ和らいだ。患部は二倍くらいに腫れ上がっていた。
それから常備しているムヒアルファEXを患部に塗った。1時間もしたら痛みと腫れが引いて、「今回はえらく簡単に治ったな……」と安心したのだが甘かった。
48時間後に、ステロイド剤のリバウンドがやってきた。猛烈な痒みと痛みが復活し、患部が再び腫れ上がった。
慌てて再びムヒアルファEXを塗りたくったが、今度は痒みが残った。それから硫黄剤を入れた風呂に入り、患部を洗浄したら、痛みが引いた。
これで一件落着と思ったが、三日後から、またまた猛烈な痒みが襲ってきた。今度はムヒを塗ったが、あまり効果がなかった。
かくして一週間以上経過したが、まだ痒みが引かない。いったいムカデ毒は、どこまでしつこいのだ。
ムカデが室内に入ってくる理由は、室外に落葉の堆積があること。湿った場所があり、たくさんの虫が湧いていることだ。これはムカデの繁殖に最高の条件なので、可能ならそれを排除する。ムカデの大好物はゴキブリなので、それを追って入ってくることもある。
落葉を排除できない場合は、オルトラン粒剤を、落葉の堆積や床下に撒いておく。私はムカデに噛まれる数日前にオルトランを散布していたが、靴の中まで注意が至らなかったのでムカデの侵入を許していた。その靴は半年以上履いていなかったものだ。
それからというもの、靴には虫除け薬をスプレーするようにしている。
ムカデは、進入路にハッカなどハーブ臭があると強く嫌う。室内に何度か侵入したムカデにハッカ・ヒノキオール混合をアルコールで薄めたものをかけたら、すぐに死んでしまった。
だから、戸口には、夜、ハッカ薄め液をスプレーしておくと効果がある。市販のムカデ防除薬(粉剤)を出入口に散布しておくのもよい。室内はハーブ液散布が良い。
布団への侵入を防ぐには、布団にハッカスプレーをかけるしかない。
これまで数十回のムカデ侵入と咬傷を体験し、細心の注意を払って防除対策をしてきた私が、再び噛まれたのはショックだった。靴のなかというのは死角だったのだ。
噛まれた場合は、温水器で45度程度にした熱い湯を15分間かけ続ける。噛まれた表皮に毒があるので、よくもみ洗いをして毒を流す。その後、ステロイド剤を塗るのがセオリーだが、今回、それでも一週間、毒性に苦しむことになった。
ムカデ咬傷の痛みは、相当なレベルで、痛風や尿路結石に匹敵するかもしれない。農薬を使いたくはないが、落葉のなかにあるムカデの巣を退治するにはオルトランなどの比較的弱毒の農薬しかない。有機リン農薬は健康被害が起きるので使うべきではない。
オルトランの毒性は一ヶ月くらいで消えるので、年に数回、5月から11月までくり返し散布する必要がある。
数年前から、裏山での大きな異音に気づいていた。最初は、また猪だろうと思っていたが、メッシュ鉄筋塀を設置してあるので、安心していた。
私は中津川市の防災メールを受信しているので、市内の火災や動物被害に関心を向けていた。あるとき、熊目撃情報に、私の家の裏山が記載されていることに気づいた。ほんの数百メートル離れた場所での目撃情報だった。
だが、それで合点がいったことがある。それは臭いだ。熊には独特の獣臭がある。同じ臭いが、我が家の敷地内に残っていたのだ。「これはやばい!」と思った。
若い頃から、山歩きにおける熊とのニアミスが度々起きていたから、何よりも熊臭に警戒心があった。敷地のなかに、熊が侵入した形跡があることに気づいたのだ。
夜間、不用意に外に出たなら熊に襲撃される可能性に、心を置かねばならなくなった。
今のところ、目撃された熊は、若熊で、それほど深刻な事態でもないが、10年ほど前、我が家の向かいの丘で熊が発見されたときは、体重100キロを超える大熊だった。
岐阜県は、秋田県や岩手県、長野県と並んで熊のメッカのような場所で、県内のいたるところで出没情報がある。
https://j-town.net/2015/01/08198979.html?p=all 私は毎日、高峰山の山麓で山歩きをしているのだが、ここでも、たくさんの痕跡を見かけた。
http://tokaiama.blog69.fc2.com/blog-entry-1374.html ストックを持参して、カチャカチャと歩いていたら、近くで怯えた熊が吠え声を出したこともある。
もう山歩きも、日常生活も、熊と折り合いをつけねば成り立たない時代になっている。だから鈴は欠かせない。私はザックに二種類の小型ハンドベルをつけている。遠達性のすぐれた高音の鈴だ。
これなしで山を歩くのは無理になりつつある。熊侵入と、近所のパンクさせる趣味の悪意親父を防御するため、表には大光量のセンサーライトをつけた。これは泥棒にも効果が高い。以前、工作室に置いてあった高価なアマチュア無線機を盗まれた。犯人の見当はつけているが、近所のひどく挨拶の悪い若者だ。人を責める趣味のある人は危ない。
田舎暮らしでは、こうしたセンサーライトは必需品になったかもしれない。
田舎は善人だけがいる場所ではないことを、くれぐれも気にとめて。
追記、マムシ対策を書き忘れていた。
我が家の土地は、昔「マムシ平」と呼ばれたほど、マムシが多い土地だ。近所に鳶巣山もある。鳶が多いのはマムシが多いことの裏返しなのだ。
以前は、ほぼ毎日庭で見かけた。そこで対策を考えた、マムシの嫌いな硫黄臭で防御するため、石灰硫黄合剤を買って、毎日のように湿地や畑に散布した。
これでマムシが出なくなった。家の周りのコンクリートに沿って移動する習性があるので、基礎には必ず石灰硫黄薄め液を散布しておく。