親の医療費は子供の地獄
まあ、私自身の希望としては、認知症になったり寝たきりが確実な状態になった場合は「さっさと殺してくれ」と思っているのだが、現在の法制度ではそうはいかない。親の医療費だけで子供は破産するだろう。
(以下引用)
「田舎の実家」で倒れた“父の介護”で、まさか「家計破綻」しかけた50代サラリーマンの悲劇
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/86098
2021.09.08 太田 差惠子 介護・暮らしジャーナリスト マネー現代
田舎の親が突然倒れて、いきなり介護が必要になる――そんなケースに直面する人が少なくない。たとえ運よく老人ホームなどに入れられたとしても、じつは安心できない。
前編(『田舎で倒れた父親を「特養老人ホーム」に入れた50代サラリーマン男性の悲劇』)で紹介したシンゴさん(仮名、50代サラリーマン)の場合は田舎の父親がいきなり倒れて、介護をすることに。特別養護老人ホームに入れることができたものの、最初に運び込まれた病院への支払いについて父親の口座からおカネをおろすことができずに“自腹”で支払うはめに。しかも、入院費だけではなく、それ以外の出費もかさんでいって……そして「本当の悲劇」はそこから幕を開けたのです。
半年で「130万円」が消えた…
「入院費用は月5万円ほどで済むと思っていた」と言うシンゴさんですが、実際、75歳以上で一般的な所得だと自己負担額の上限は1ヵ月で5万7600円(長期療養の場合、4万4400円になることも)です。
しかし、入院にかかる費用はそれだけではありません。たとえば、食事代は月4万1400円ほど。それだけで入院費と合わせて約10万円になり、そのほかにもリネン代など保険のきかない自己負担もかかってくるのです。
しかも、今回シンゴさんの父親はリハビリ病院に転院したので、入院期間は合計して6ヵ月という長期入院となりました。そのため、シンゴさんは病院に最終的に70万円以上支払うこととなり、さらに、今住んでいる東京と実家の九州の往復やその他もろもろで、最初の半年で130万円ほどを使ったといいます。
とてつもない額に膨れ上がってしまったわけです。
不審な領収書が…
シンゴさんを悩ませたのは、「おカネをおろせない問題」だけではありませんでした。
通帳を見ると、父親は月18万円ほどの年金をもらっていることがわかりましたが、1年ほどの間に1000万円近くがおろされており、倒れる直前の残額は300万円少々でした。
さらに、シンゴさんが実家の”家探し”をした際、不審な領収書が複数枚出てきました。
そこには「耐震工事」だの、「シロアリ駆除」だのと書かれています。
あまりに金額が大きいので、領収書に記されている電話番号に電話してみましたが、つながりませんでした。
それだけではありません。台所には、手つかずの段ボールが12箱。なんと、健康飲料らしきものが入っていました。どうやら、ほんとうは必要ではない商品やサービスを購入してしまっているようだということがわかってきました。
「近所の親戚に聞くと、いつからか父親の行動が変で認知症を疑っていたそうです。知らせてくれればいいのに、と思いましたが、連絡を取っていなかった僕が悪いのですよね」とシンゴさんはため息まじりに話します。
自責の念…そして、藁にもすがる思い
「半年で、九州に10回は行きました。父のおカネはおろせないし、経済的にも体力的にも辛くて、病床の父に対して『死んでくれたほうが…』と思ったこともあります。弟に連絡してもなしのつぶてで」
誰でも、負担が増すとそのように考えてしまうこともあるのではないでしょうか。なかには、そう考える自分自身に耐えきれず、自責の念からみずからが鬱状態になる人もいます。
そんなシンゴさんは経済的な負担を何とかして軽減したいと考えました。
「ダメもとで日本年金機構に電話をして、父親の年金を僕の口座に入金してもらえないかと問い合わせましたが、できないと言われました」
年金の支給は、年金受給権者の名義以外の口座には振り込みができない仕組みになっているのです。
特別養護老人ホームに入所が決まったとき、シンゴさんは門前払いになった銀行の窓口に再度赴きました。窓口の人に事情を話すと、副支店長が出てきて、話を聞いてくれました。
副支店長からは、「成年後見制度」の利用を提案されました。
特別養護老人ホームの「費用」
家庭裁判所に申し立てをして、「代理人」と定められれば、本人の意思が確認できない場合も預貯金を引き出すことができます。厚生労働省によると、成年後見を申し立てるのは「子」がもっとも多く、申し立ての動機は「預貯金などの管理・解約」がトップです。
副支店長から言われるまでもなく、シンゴさんは、「成年後見制度」のことは調べていました。けれども、それほど財産があるわけでもないのに、家庭裁判所に申し立てることは気持ち的にハードルが高かったといいます。
折り合いの悪い弟がいるので、おそらく後見人にはシンゴさんではなく、弁護士や司法書士ら専門家が選任されることになるでしょう。そうなると、数万円の報酬が発生します。
副支店長にも年老いた親がいるらしく、親身になってシンゴさんの話を聞いてくれました。地域密着の銀行で、副支店長はシンゴさんの父親のことを知っていました。父親はシンゴさんのこともよく話していたようです。
最終的に、親子関係を証明する戸籍抄本、医師の診断書、施設費用書面などを提出することで、特養の支払いを自動振替する手続きを行えるよう取り計らってくれました。
「九州往復の交通費などはかかりますが、とりあえず特養の費用は、父の年金で払えることになりやれやれです」
「215兆円」問題
シンゴさんの事例は珍しい話ではありません。
第一生命経済研究所の試算では、認知症の人が保有する金融資産額は2030年頃には215兆円に達する見通しです。
全国各地で「おカネがおろせない問題」が勃発しており、それぞれの金融機関が対応に苦慮しています。そうした背景から、2020年3月、全国銀行協会は各銀行に対して認知症の人の預金を家族が引き出しやすくするための通達を出しています。
シンゴさんが提出したような書類を用意することで、金融機関の窓口は名義人の医療費や介護費の出金について相談に乗るように求めた内容です。
しかし、あくまで使用使途は限定的であり、金融機関によって対応は異なります。原則は、引き出しには名義人の意思確認が必須であり、それが難しい場合には後見人の申し立てが必要なのです。
シンゴさんはこう言います。
「僕のようにならないために、親が元気なうちにお金のことを話し合っておくほうがいいですよ」
だれも「他人事」ではない
金融機関によっては、2枚目のキャッシュカードである「代理人カード」を作れたり、「代理人指定」をしておけたりします。
「家族信託」や「任意後見制度」を利用する方法も考えられます。
親に判断力があるなら、地元の社会福祉協議会が通帳を預かったり入出金をサポートしたりする「日常生活自立支援事業」の利用も選択肢となるでしょう。
悪徳業者に標的にされることを防ぐ効果も期待できます。
ただし、家族間でお金のことを本音で話し合うためにはコミュニケーションがあってこそ。
しっかり親子で向き合うことが第一歩だといえるでしょう。
(以下引用)
「田舎の実家」で倒れた“父の介護”で、まさか「家計破綻」しかけた50代サラリーマンの悲劇
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/86098
2021.09.08 太田 差惠子 介護・暮らしジャーナリスト マネー現代
田舎の親が突然倒れて、いきなり介護が必要になる――そんなケースに直面する人が少なくない。たとえ運よく老人ホームなどに入れられたとしても、じつは安心できない。
前編(『田舎で倒れた父親を「特養老人ホーム」に入れた50代サラリーマン男性の悲劇』)で紹介したシンゴさん(仮名、50代サラリーマン)の場合は田舎の父親がいきなり倒れて、介護をすることに。特別養護老人ホームに入れることができたものの、最初に運び込まれた病院への支払いについて父親の口座からおカネをおろすことができずに“自腹”で支払うはめに。しかも、入院費だけではなく、それ以外の出費もかさんでいって……そして「本当の悲劇」はそこから幕を開けたのです。
半年で「130万円」が消えた…
「入院費用は月5万円ほどで済むと思っていた」と言うシンゴさんですが、実際、75歳以上で一般的な所得だと自己負担額の上限は1ヵ月で5万7600円(長期療養の場合、4万4400円になることも)です。
しかし、入院にかかる費用はそれだけではありません。たとえば、食事代は月4万1400円ほど。それだけで入院費と合わせて約10万円になり、そのほかにもリネン代など保険のきかない自己負担もかかってくるのです。
しかも、今回シンゴさんの父親はリハビリ病院に転院したので、入院期間は合計して6ヵ月という長期入院となりました。そのため、シンゴさんは病院に最終的に70万円以上支払うこととなり、さらに、今住んでいる東京と実家の九州の往復やその他もろもろで、最初の半年で130万円ほどを使ったといいます。
とてつもない額に膨れ上がってしまったわけです。
不審な領収書が…
シンゴさんを悩ませたのは、「おカネをおろせない問題」だけではありませんでした。
通帳を見ると、父親は月18万円ほどの年金をもらっていることがわかりましたが、1年ほどの間に1000万円近くがおろされており、倒れる直前の残額は300万円少々でした。
さらに、シンゴさんが実家の”家探し”をした際、不審な領収書が複数枚出てきました。
そこには「耐震工事」だの、「シロアリ駆除」だのと書かれています。
あまりに金額が大きいので、領収書に記されている電話番号に電話してみましたが、つながりませんでした。
それだけではありません。台所には、手つかずの段ボールが12箱。なんと、健康飲料らしきものが入っていました。どうやら、ほんとうは必要ではない商品やサービスを購入してしまっているようだということがわかってきました。
「近所の親戚に聞くと、いつからか父親の行動が変で認知症を疑っていたそうです。知らせてくれればいいのに、と思いましたが、連絡を取っていなかった僕が悪いのですよね」とシンゴさんはため息まじりに話します。
自責の念…そして、藁にもすがる思い
「半年で、九州に10回は行きました。父のおカネはおろせないし、経済的にも体力的にも辛くて、病床の父に対して『死んでくれたほうが…』と思ったこともあります。弟に連絡してもなしのつぶてで」
誰でも、負担が増すとそのように考えてしまうこともあるのではないでしょうか。なかには、そう考える自分自身に耐えきれず、自責の念からみずからが鬱状態になる人もいます。
そんなシンゴさんは経済的な負担を何とかして軽減したいと考えました。
「ダメもとで日本年金機構に電話をして、父親の年金を僕の口座に入金してもらえないかと問い合わせましたが、できないと言われました」
年金の支給は、年金受給権者の名義以外の口座には振り込みができない仕組みになっているのです。
特別養護老人ホームに入所が決まったとき、シンゴさんは門前払いになった銀行の窓口に再度赴きました。窓口の人に事情を話すと、副支店長が出てきて、話を聞いてくれました。
副支店長からは、「成年後見制度」の利用を提案されました。
特別養護老人ホームの「費用」
家庭裁判所に申し立てをして、「代理人」と定められれば、本人の意思が確認できない場合も預貯金を引き出すことができます。厚生労働省によると、成年後見を申し立てるのは「子」がもっとも多く、申し立ての動機は「預貯金などの管理・解約」がトップです。
副支店長から言われるまでもなく、シンゴさんは、「成年後見制度」のことは調べていました。けれども、それほど財産があるわけでもないのに、家庭裁判所に申し立てることは気持ち的にハードルが高かったといいます。
折り合いの悪い弟がいるので、おそらく後見人にはシンゴさんではなく、弁護士や司法書士ら専門家が選任されることになるでしょう。そうなると、数万円の報酬が発生します。
副支店長にも年老いた親がいるらしく、親身になってシンゴさんの話を聞いてくれました。地域密着の銀行で、副支店長はシンゴさんの父親のことを知っていました。父親はシンゴさんのこともよく話していたようです。
最終的に、親子関係を証明する戸籍抄本、医師の診断書、施設費用書面などを提出することで、特養の支払いを自動振替する手続きを行えるよう取り計らってくれました。
「九州往復の交通費などはかかりますが、とりあえず特養の費用は、父の年金で払えることになりやれやれです」
「215兆円」問題
シンゴさんの事例は珍しい話ではありません。
第一生命経済研究所の試算では、認知症の人が保有する金融資産額は2030年頃には215兆円に達する見通しです。
全国各地で「おカネがおろせない問題」が勃発しており、それぞれの金融機関が対応に苦慮しています。そうした背景から、2020年3月、全国銀行協会は各銀行に対して認知症の人の預金を家族が引き出しやすくするための通達を出しています。
シンゴさんが提出したような書類を用意することで、金融機関の窓口は名義人の医療費や介護費の出金について相談に乗るように求めた内容です。
しかし、あくまで使用使途は限定的であり、金融機関によって対応は異なります。原則は、引き出しには名義人の意思確認が必須であり、それが難しい場合には後見人の申し立てが必要なのです。
シンゴさんはこう言います。
「僕のようにならないために、親が元気なうちにお金のことを話し合っておくほうがいいですよ」
だれも「他人事」ではない
金融機関によっては、2枚目のキャッシュカードである「代理人カード」を作れたり、「代理人指定」をしておけたりします。
「家族信託」や「任意後見制度」を利用する方法も考えられます。
親に判断力があるなら、地元の社会福祉協議会が通帳を預かったり入出金をサポートしたりする「日常生活自立支援事業」の利用も選択肢となるでしょう。
悪徳業者に標的にされることを防ぐ効果も期待できます。
ただし、家族間でお金のことを本音で話し合うためにはコミュニケーションがあってこそ。
しっかり親子で向き合うことが第一歩だといえるでしょう。
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