――『三國シェフのベスト・レシピ136 永久保存版』の副題に「スーパーの食材で作る」と打ち出したところが興味深いです。
まずは、家族がみんな家にいるような状態のときに役立つレシピがいいだろうと。僕は昔、20歳のときに3年8カ月スイス・ジュネーブの日本大使館公邸で料理長を務めていました。大使とその家族の食事を毎日3食プラス夜食で4食作っていた、あのときの感覚でやろうと。
この近所にあるスーパーで特価品とか買ってきてもらって。そこにリアリティを感じていただけたのか、一気に伸びました。
「家族が喜んで食べてくれて、コロナでうつうつとしていた家庭が華やかになった」という感想も多くもらいました。精神的に救われたという人もいて、それは嬉しかった。
エシャロットがなければ玉ねぎでOK
――本書ではフランス料理を「簡単に」再現することに重きを置かれていますね。「切って混ぜるだけ」「材料は2つだけ」など、時間をかけずに簡単に作れるアドバイスが多く盛り込まれているように感じました。
フランス料理を家庭でとなると、一般の人は写真を見ただけで「こんなの作れない」と諦めてしまうんです。
まず材料が多いとハードルが上がりますので、意識的に食材は減らして、フライパン1つでできるようにしています。また、代用品の提案をしました。エシャロットがなければ玉ねぎを使うとか、ビネガーがなかったら米酢でいいとか、そうやって少しでもとっつきやすいようにしています。
そして作るときは意識的に、フライパンでばーっとやって、皿にばーっと盛って、これでいいやみたいにやる。一般の人はそれですごく楽になるんだって。たまに焦がしたりすると喜ばれます。焦がすことそのものは、フランス料理なので焦げ目から味を作って仕上げていくこともありますしね。
本の中にある「塩は『3回』で決める」は恩師である帝国ホテルの村上料理長の言葉です。1回目は素材から味を引き出して下味、中間で塩して調整、最後で決める。決まってれば最後は塩をしないですけど。しょっぱくなったら元に戻せませんから。
スープの塩分も同じで、ひと口目からちょうどにしない。最初は薄味に思えても飲み終わったときに塩分がちょうどになるようにというのは、スープの基本なんです。そういうところはフランス料理のセオリーに忠実にやっています。