「好き」と「依存症」の違い
日本人のアルコール許容量は驚くほど低くて、昔の日本人は晩酌に1合か多くて2合くらいで満足していたはずである。そして、アル中はいなかったらしい。これは北杜夫が書いているが、体質的に日本人はアルコールに弱いので、アル中になるほど酒を飲めないということのようだ。
ただし、度を超えて酒を飲みたがる人も希にはいるわけで、それをアル中と呼ぶだけの話だろう。
基準は、自己制御ができるかどうかではないか。朝、起きたてから酒に手を出せば、「アルコール依存症」であると見ていいだろう。飲み始めると泥酔するまで飲まないと気が済まない、というのも準アルコール依存症といったところか。
しかし、酒が好きで、毎日飲む習慣があるが、泥酔するほどは飲まない、という程度ではアルコール依存症ではないと私は思う。前に書いた、自己制御ができるかどうかという基準に合っているからだ。単に酒が好きだというだけなら、ガーデニングが好きとか犬や猫が好きというのと同じことである。それらが嫌いな人が、「あいつはガーデニング依存症だ」「あいつはペット依存症だ」と言うだろうか。
吉田戦車「もしかしてアルコール依存症?」と思って徳利を買う連載 2018.06.06
芸能人の「酔っぱらって女子高生にわいせつ行為」事件の記事をいくつか読んで一番思ったのが、「この人の依存レベルに近いところに、私もいるのかもな……」ということだった。
アルコール依存症のチェックシートというのをやってみると、もう設問1「どれくらいの頻度で飲みますか?」から、だいたいの結果が自分でわかる。
「アルコール依存症の疑いがあります。断酒か節酒をおすすめします」みたいな。なかなか酒を減らせない。
休肝日は現在、かろうじて週に1日。昨年、いわゆる平日禁酒を1、2カ月やってみて、体調などとてもよかったのだが、戻った。そんな飲み方が定着したら一番いいんでしょうけどね……。
酒量自体は昔より減ってきている。6時に起きて朝食を作らねば、というプレッシャーも、歯止めになっているのだろう。
とはいえ、日本酒換算で3合ぐらいはだいたい飲んでいる。そんな日々の中、もしかして節酒できるのではないか、と思ってやってみたのが「徳利で飲む」ということだ。
食器売り場で、「蛇の目一合燗」という徳利を目にして、ついほしくなり、買った。税込み486円。うちにはちろり、片口はあるが、徳利はなかった。
小ぶりでとてもかわいい。これで、ついだりつがれたりしないで、一人分をきりっと飲みたい、と思った。
二合徳利は大きすぎて、なんだか酒にいじきたない感じだ(酒にいじきたないのだが)。妻が出かけて子供と二人で夕飯の日に、これでやってみた。酒器はぐいのみではなくて、おちょこ。冷やで。
なめるようにちびちびやりながら、夕飯を食べていると、これがけっこうもつのだった。
おちょこ4杯で徳利が空になったのだが、すでに子供は食事を終えていて、そして意外なほどの酔いを感じた。
その日はそこで打ち止めにして、おとなしく寝ることができた。医療関係者が推奨する、絶対ムリ、と思っていた「体にいい酒の飲み方は、日本酒で一日一合ほど」が、できるかも。
徳利、イケるかもしれん。もう一本くらいあってもいいなと、ネットで一合徳利を検索した。これで飲みたい、と思えるかわいいものはあまりない。
「正一合」と書かれたものを買ってみた。税込み1188円。文字が独特の書体でおもしろいし、素朴な丸みが手にうれしい。
後日妻と飲んだ時は、2合で抑えることができた。
……と、調子のいいことを書いているが、ワインだと徳利を使うわけにもいかず、「妻と2人で1本半なら上出来、だいたい2本」という飲酒量になってしまう。
ワインも、リーズナブルでけっこう楽しめるやつが増えてきたよな、などといってるところがもういかん。
アルコールとの闘い、というか、「アルコールとのつきあい方をめぐっての、自分との闘い」は、今後も続いていくのだった。
よしだせんしゃ
マンガ家 1963年生まれ 岩手県出身 『伝染るんです。』『ぷりぷり県』『まんが親』『おかゆネコ』など著作多数。「ビッグコミックオリジナル」で『出かけ親』、「ビッグコミックスピリッツ」にて『忍風! 肉とめし』を連載中。妻はマンガ家・伊藤理佐さん
※本誌連載では、毎週Smart FLASH未公開のイラストも掲載
(週刊FLASH 2018年6月12日号)