カルト宗教あるある2:「神秘体験」と「ジャーゴン」

 第二に、ダニーがメイクイーン選定のために薬を飲まされて踊るシーンです。このシーンがどう私のカルト宗教の体験と繋がるかを説明する前に、まずカルト宗教を語る上で重要なことを2つ説明したいと思います。

 一つ目に神秘体験です。肉体や精神に負荷を掛けていく修行、瞑想、自己啓発セミナー、薬物などによって、人は強烈な光を見たり、神の姿を見たり、神の声を聴いたり、背筋に電流が流れるような畏怖の感情が湧き上がったりします。

 カルト宗教では、こうした体験がその宗教の教義を裏付ける「神秘体験」として説明されるのですが、実際は脳内物質の働きなどを通して、科学的に説明可能な事象です。そして、大抵の方は宗教団体の中で修行や瞑想を真剣にする機会がないでしょうから信じがたいかもしれませんが、これが意外に簡単に引き起こすことが出来るものなのです。

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 神秘体験を経験すると、その宗教の真実性が増すように感じられてしまいます。また、端からみると、人格や価値観がまるっきり変わってしまうことがあります。オウム真理教に関して、何故高学歴の彼らが荒唐無稽な麻原の教えを信じ犯行に及んでしまったのかが議論の俎上に載せられることがあるのですが、この神秘体験を経験してしまったがために入信したと語った元信者もいるのです。

 二つ目に、ジャーゴン、つまり内輪だけで通じる専門用語や特殊な言い回しです。ジャーゴンを使うのは何もカルトだけではありません。数人の友達内で通じる合言葉やインターネットミームなどもジャーゴンと言えるのではないでしょうか。

 カルト信者はカルト宗教だけで通じるジャーゴンを好んで使います。それ故に、外部から来た人がカルト宗教と接触して初めて感じる違和感はカルト信者の使うジャーゴンです。逆に言えば、カルト宗教のジャーゴンを使い始めれば信者になったということです。

神秘体験を経験し、すっかり教義を信じるように

 私はすっかり信用してしまったボランティア活動の先輩の勧めによって、冬休みの間に行われる研修会に参加しました。最初は感謝の大切さやグループ内での価値観を共有することを学ぶ一般的な自己啓発セミナーから始まり、次第に教祖(もちろん、講義の中では教祖などとは呼ばない)が世界平和を目指す活動家であることが明かされ、そして、最終的にカルト宗教の教義を学ぶに至りました。それはまるで、カエルが穏やかに上昇する水温を知覚できずに茹でガエルになる寓話そのものでした。

 研修会の中で、私は魂が震えるような感覚に襲われ、神のようなものを見る神秘体験を経験し、すっかりカルト宗教の説く真の家庭による理想世界が本当に到来すると信じるようになってしまいました。そしていつしか、私は元の私の言葉ではなく、カルト宗教のジャーゴンを使うようになっていました。

 正しく、私はカルト宗教の信者になってしまったのです。