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独楽帳

青天を行く白雲のごとき浮遊思考の落書き帳

「一罰百戒」の怪しさ

詳しい検討はしていないが、「法の公平な適用」という問題に関する面白い事例である。




(以下引用)

【関西の議論】ネット競馬で3億円的中した被告「刑事罰は理不尽」 主張の行方は

【関西の議論】ネット競馬で3億円的中した被告「刑事罰は理不尽」 主張の行方は: JRAのWIN5で2億3200万円以上の払戻金を表示する電光掲示板 © 産経新聞 提供 JRAのWIN5で2億3200万円以上の払戻金を表示する電光掲示板

 競馬ファンなら誰もが夢見る高額当選を2度にわたり実現させ、3億円近くの払戻金を手にした大阪府寝屋川市職員の男(48)=休職中=が、所得税法違反罪で大阪地検特捜部に在宅起訴された。裁判では脱税を認めて反省の弁を述べたが、納税に加えて刑事罰に問われたことに「見せしめで理不尽だ」と立腹している。競馬で払戻金を受け取った多くの人が確定申告せずに納税していないという考えが、主張の根底にあるようだ。インターネットを通じた取引は記録される一方、窓口での払い戻しは支払先が記録されず国税当局も把握が極めて難しいとされる。「当局に把握されたものだけ課税することは妥当なのか」。原告側の主張は裁判所に通じるだろうか。

「WIN5」2回的中

 起訴状によると、被告は平成24年に約3460万円、26年に約1億4350万円の課税所得があったのに、競馬の払戻金による所得はまったく申告せず、2年で所得税計約6200万円を脱税したとされる。

 所得には寝屋川市職員として得た給与分も含まれるが、大きいのはやはり競馬で当てた分だ。

 被告は24年4月、日本中央競馬会(JRA)が指定する5レースで1着馬を全て当てる「WIN5」を的中させ、約5600万円の払戻金を得た。さらに26年10月にも再び的中させ、約2億3200万円を獲得。両年中には、他にも1~3着馬を予想する複勝式馬券を的中することもあった。馬券の購入は専用の口座を経由して行っていた。

 こうして得た払戻金はほとんど使わずに預貯金に回し、確定申告せずに納税を免れていたという。

 被告人質問などによると、被告は二十歳過ぎから競馬を始めた。G1レースのみで馬券を年間5万円程度購入していたが、負けることがほとんどで、競馬場に足を運ぶのは年1、2回。予想ソフトは使わず、競馬雑誌などの記事を参考にして自らの判断で購入馬券を決めていた。WIN5の購入を始めたのは40歳を過ぎてからだった。

「深く反省」でも…

 被告は払戻金を得た後、自分が支払うべき納税額を国税庁のホームページなどで調べていたといい、検察側は脱税の意図があったのは明らかと指摘。動機については「税金を払うのが嫌だったという身勝手なものだ」と指弾した。

 被告はこれらを認め、法廷でも「深く反省している」と非を認めた。だが、公判では、被告を刑事罰に問うことは著しく不公平だと訴えている。

 もともと脱税案件では、国税当局が行政処分として追徴課税を行う。被告の場合、脱税額約6200万円に加え、過少申告加算税や延滞税など計約1千万円を支払う必要が生じた。さらに、刑事事件として摘発されたため、「行政処分と刑事罰の両方が科されるのは過剰」としているのだ。

「スケープゴートに」

 被告側は主張の根拠として「競馬の払戻金を得たほとんどの人が確定申告していない」とする。競馬場や場外馬券場での払い戻しは自動払い戻し機や窓口で行われ、支払先は記録されず、払い戻しの際に氏名などを申告する義務もないからだ。

 JRAは「大勢の客がいる中で個々の記録を取ろうとすると、円滑な払い戻しができない」と実情を説明する。

 一方、JRAの公表資料を被告側弁護士が調査したところ、被告が脱税したとされる時期の馬券の売り上げは、24年度が2兆4千億円あまり、26年度が2兆4900億円あまりで、払戻金はそれぞれ1兆8千億円以上だったという。

 弁護側は、多額の払戻金があるのに課税実態がない中で被告が刑事罰に問われるのは「被告をスケープゴートにした」と主張。法の下の平等を規定した憲法14条に違反すると訴えている。

マルサの手法も争点に

 このほか弁護側は、事件の端緒となった「マルサ(国税査察官)」の調査の妥当性も争点としている。

 出廷した大阪国税局の査察官は、別の脱税事件の調査でインターネット銀行に顧客情報の開示を受けた際、多額の残高がある被告の口座を偶然発見し、その後の調べで、競馬の所得を申告していなかったことが分かった、と説明した。

 これについて弁護側は「査察官が本来の目的を逸脱して口座情報を得た」と批判。いわゆる「横目調査」や「悉皆(しっかい)調査」が行われたと主張した。

 これらの調査は、国税職員が金融機関で口座情報を調べる際、対象以外の情報を盗み見たりすることを指す。弁護側は「違法に収集した証拠」と証人尋問で査察官を追及したが、査察官は違法性を否定。ただ、具体的な調査手法については守秘義務を理由に「お答えできない」と繰り返した。

「脱税額大きく起訴は正当」

 裁判所は課税の公平性や国税調査の是非をどう判断するのか。

 検察側は論告で「ほかの事件と同様、悪質さや犯意の強固さ、被告の事情や犯行後の状況などを考慮して処分を決めている」と述べ、公平な事件処理をしていると主張。その上で「被告は申告を認識しながら意図的に脱税している。脱税額の大きさや悪質さからすれば、起訴が著しく不当な事案とは到底言えない」と、刑事罰の妥当性を訴え、懲役1年、罰金1900万円を求刑した。

 判決は5月9日に言い渡される予定だ。

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