2008年に逝去された福岡正信氏は、世界の農業に巨大な革命を起こした……と言いたいところだが、残念ながら、いまだ日本のプロ農家の大部分が福岡式自然農法を採用していない。
理由は何か? 私も、乏しい知識で猿真似をしてみて、分かったことがある。
それは、「何もしない……」放置農法といわれながら、実態は、まったく逆で、凄まじい手間のかかる農法だからだ。
それは、何よりも農地の土壌が福岡式を適用できるほどに成熟するには、どんなに短くとも5年、普通は10年かかるということ。その間に、農家として必要な換金作物の生産が非常に困難であるということ、そして福岡式が成立し、素晴らしい作物を収穫できたとしても、農業機械に頼ることができないため収穫量が少なく、市場に出すには、恐ろしい手間がかかるということだ。
収穫作物の価格も、その手間と栄養価や美味の価値を反映したものにならない。消費者の理解が乏しいのである。
福岡式農法の本質は、炭素循環法であって、好気性土壌微生物量が一般農地の数十倍もあるような、まるで数千年も斧鉞の入らぬ原生林のような土壌で、入れた有機質が、たちまち微生物によって分解される、土壌そのものが一つの巨大な生物であるかのように絶えず呼吸する農地である。
それは無肥料とか無耕起で示されるような農業用農地の概念では表せない、生命活動そのものなのだ。
農作物が土壌の肥料分を吸収するためには、ミミズや土壌菌類など何段階もの分解が必要であって、稠密な微生物相こそが肥料の本質である。
だから、少ない肥料や、落雷固定窒素でさえ、土壌微生物の橋渡しによって植物体が吸収して成長できるのである。
それが鮮明なのは豆類や甘藷の窒素固定菌(根粒菌)である。この菌は、土壌窒素分が逆に有害であり、空中窒素の固定が抑制される。
つまり、肥料よりも微生物相の方が大切なのだ。過チッソ土壌で芋が育たないのは、そのためだ。
福岡式自然農法農地には、絶対に人より重い農業機械を入れてはならない。すべての農作業は、手作業だけで行わねばならない。
それは、手で鉄棒を入れれば2mも差し込めるようなフカフカのスポンジ土壌が圧縮されて微生物が呼吸できなくなるからだ。人が歩いて踏み固めることさえ躊躇されるようなスポンジケーキなのだ。
自然農法畑にスコップを入れると、私の畑では、嫌気性微生物のカビのような悪臭が出るのに対し、まるで、最高の麹のような、ふくよかな良い香りが漂う。ちょうど紅葉が終わる頃、分解酵素で香しい芳香が漂うのと似ている。
それは、大気と絶え間なく呼吸して、地下深くまで酸素が循環しているからだ。
「福岡式土壌」が成立するまでは、外部からの人為的干渉を一切断って、土壌酵素を与えて放置しても、5~10年かかるといわれるが、1~2年程度に短縮することもできる。
それは、EM菌かEMBC培養液を土壌表面から平米数十リットルも大量に散布するやり方だ。元々、比嘉輝男氏がEM菌を発見したのは、原生林の土壌からだといわれる。
つまり自然界最高のバランスに収束した原生林土壌の成分がEMであり、福岡式農地なのだ。
だから、EMやEMBC培養液を大量に投与した土壌は、1年くらいで鉄棒が1m以上軽く差し込めるフカフカ土壌に変貌する。
そこには、ミミズや好気性バクテリアの宇宙が展開されている。作物に敵対するメタン菌やフザリウムなどの嫌気性菌が消えてしまうのである。
嫌気性菌は粘性物質を分泌して、コロニーを作り、土壌の通気酸素を遮断してしまう。
EM培養液投入土壌では、酵母や乳酸菌などが大量に生成されていて、他の土壌の数十倍のスピードで炭素循環が行われているので、地表の植物残渣など有機物が短期間で分解される。
ならばEM培養液でやれば手っ取り早いと思うが、残念ながら比嘉EMは世界救世教の資金源なので、培養液1トンを作るのに数万円もかかるほど高価であり、経済性がないし、また外部から乳酸菌源を入れるような人為的な改変ではなく、自然の秩序に任せて淘汰の洗礼を与えた方が長期的な信頼性が高い。
EM培養液を入れる代わりに、深い溝をたくさん掘って、蜜柑、柿、などの果実皮など酵素源を大量投入して5年間放置することで、福岡式土壌に近づけることができる。
私は、ブラジルで農業を営んできた、ある方から、ほぼ福岡式といえる自然農法のやり方を、長浜市まで行って聞いたことがある。
ブラジル帰りのSさんは、この方式を確立し、東チモールで、大規模な果樹栽培に成功された。もちろん、無農薬・無耕起・無肥料だった。
海外で大きな支持を集めている日本の自然農法 2021年05月13日
福岡式自然農法は、このようなスポンジケーキ土壌を作るところから始まり、収穫物の残渣(稲の場合は藁)を長いままで農地に返す。
そして「泥団子」と呼ばれる独特の種子栽培を行う。泥団子播種方式は、現在、日本のたくさんの研究者によって、世界中の砂漠緑化、不毛地緑化に利用されている。
これは「適応緑化方式」で、その土地に適応できる種だけが育つ仕組みである。
福岡式米作では、泥団子に種籾を数粒ずつ入れる。稲の刈り取り前に、麦の入った泥団子を散布しておく、刈り取りは稲穂だけで、藁は、長いまま田に返しておく。
麦を刈る前に、米の入った泥団子を散布しておき、麦わらを放置する。藁は生物マルチの役割だ。この交互二毛作が福岡式自然農法の原点である。
砂漠における泥団子は、降水量の少ない乾燥地でも、朝方は夜露が降りるので、数十種の種が入った泥団子が、夜露を被って、水が地面との接点に集中し、そこから団子の種が発芽することになる。
このとき、土地や気象に適した種類だけが発芽し、他は淘汰される。いわば、その土地に向いた種だけが育つことができる。
このような福岡式から派生した、日本NGOによる外国の荒野緑化事業は、諸外国から高く評価されている。外国には粘土団子方式のような優れた適応緑化の思想がなかったので、闇雲に多量の水を投入しても管理が長続きしなかった。
こうした福岡式農法の神髄は、自然観察力である。自分の目と足を使って長い年月をかけて自然を観察し、試行錯誤を繰り返して、もっとも適した方法を探した結果なのだ。
学問界の農業理論など、あまり役に立たなかった。粘土団子方式など地位目当ての研究者の視野では無理だ。金になること、金をかけること、評判を取れることしか考えられないからだ。
外国で日本人による砂漠緑化に成功したとき、共通する問題は、少しばかり植物が育つと、近隣の住民が押し寄せてきて、手当たり次第に刈り取ってしまうことだという。
森を作るためには、武装した軍隊で森を守らなければならないことになる。
だから、本当の問題は、住民の意識改革であり、身近な自然のなかで小さな循環原理を成功させ、感動させることで、大きな自然の循環を作るには、何をしなければならないか考えさせなければならない。
今回、福岡式を紹介した理由は、繰り返し書いているように、来年2013年は、太平洋戦争以来、最大の生活困難と農作不振が約束されているからで、わけても世界的な肥料不足、争奪戦のなかで、日本では、無肥料の福岡式に転換しなければ、農業全体に巨大な危機が訪れると考えるしかないからだ。
これからの農業は、福岡式を踏襲するならば、農業機械を捨てて、すべて手作業でフカフカのスポンジケーキ土壌を生み出すところから出発する必要がある。
こうなれば、土壌内微生物が空気中の肥料分を勝手に取り込んで、肥料を入れなくとも、十分に生育し、有害な病気や害虫も発生しにくくなる。
福岡式田んぼでは、雲霞も発生しないし、他の害虫も寄りつかない。またウイルス病にも、ほとんどかからない。それは微生物バランスによるものだ。
つまり、農薬も肥料もいらない。除草剤もいらない。そして最高の作物が収穫できる。
だから、世界的な肥料不足の飢餓のなかで、我々が生き延びるには、福岡式農法の神髄を理解し、実践することしかないと私は思う。
福岡正信の自然農法を考える 2018/7/20
2006年06月01日 日本の哲人・福岡正信氏の自然農法 - 砂漠の緑化へ
福岡正信自然農園
新しい「農」のかたち 2022年11月