Netflix「13th」のこと
小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」から記事の一部を抜粋。
Netflixのドキュメンタリー「13th」は米国の憲法13条(修正13条?)のことで、「黒人に対する差別は許さない。しかし、その黒人が犯罪者である場合はその限りでない」とかいうようなものらしい。つまり、黒人を「犯罪者」に仕立て上げれば、その黒人をいかに不当に扱ってもいい、ということだろう。(その悪用は米国社会の日常である。)下にその「13th」の要約があるので、長い濃密な作品を見なくてもある程度内容を把握できるのは非常に有益である。
(以下引用)
Netflixのドキュメンタリー「13th」は米国の憲法13条(修正13条?)のことで、「黒人に対する差別は許さない。しかし、その黒人が犯罪者である場合はその限りでない」とかいうようなものらしい。つまり、黒人を「犯罪者」に仕立て上げれば、その黒人をいかに不当に扱ってもいい、ということだろう。(その悪用は米国社会の日常である。)下にその「13th」の要約があるので、長い濃密な作品を見なくてもある程度内容を把握できるのは非常に有益である。
(以下引用)
13条が切り札になった経緯は、以下の通りだ。
- 南北戦争終結当時、400万人の解放奴隷をかかえた南部の経済は破綻状態にあった。
- その南部諸州の経済を立て直すべく、囚人(主に黒人)労働が利用されたわけなのだが、その囚人を確保するために、最初の刑務所ブームが起こった。
- 奴隷解放直後には、徘徊や放浪といった微罪で大量の黒人が投獄された。この時、修正13条の例外規定が盛大に利用され、以来、この規定は黒人を投獄しその労働力を利用するための魔法の杖となる。刑務所に収監された黒人たちの労働力は、鉄道の敷設や南部のインフラ整備にあてられた。
- そんな中、1915年に制作・公開された映画史に残る初期の“傑作”長編『國民の創生(The Birth of a Nation)』は、白人観客の潜在意識の中に黒人を「犯罪者、強姦者」のイメージで刻印する上で大きな役割を果たした。
- 1960年代に公民権法が成立すると、南部から大量の黒人が北部、西部に移動し、全米各地で犯罪率が上昇した。政治家たちは、犯罪増加の原因を「黒人に自由を与えたからだ」として、政治的に利用した。
- 以来、麻薬戦争、不法移民排除などを理由に、有色人種コミュニティーを摘発すべく、各種の法律が順次厳格化され、裁判制度の不備や量刑の長期化などの影響もあって、次なる刑務所ブームが起こる。
- 1970年代には30万人に過ぎなかった刑務所収容者の数は、2010年代には230万人に膨れ上がる。これは、世界でも最も高水準の数で、世界全体の受刑者のうちの4人に1人が米国人という計算になる。
- 1980年代以降、刑務所、移民収容施設が民営化され、それらの産業は莫大な利益を生み出すようになる。
- さらに刑務所関連経済は、増え続ける囚人労働を搾取することで「産獄複合体(Prison Industrial Complex)」と呼ばれる怪物を形成するに至る。
- 産獄複合体は、政治的ロビー団体を組織し、議会に対しても甚大な影響力を発揮するようになる。のみならず彼らは、アメリカのシステムそのものに組み込まれている。
ごらんの通り、なんとも壮大かつ辛辣な見立てだ。
私は、これまでアメリカ合衆国の歴史について、自分なりにその概要を把握しているつもりでいたのだが、この作品を見て、その自信を、根本的な次元で打ち砕かれてしまった。
というよりも、自分の歴史観に自信を抱いていたこと自体が、不見識だったということなのだろう。
私は、白人の目で見た歴史を要領良く暗記しているだけの、通りすがりの外国人だった。白人のアタマで考え、白人の手によって記されたアメリカの歴史を読んで、それを合衆国の歴史だと思い込んでいたわけだ。
黒人の立場から見れば、当然、もうひとつの別の歴史が立ち上がる。その、黒人の側から観察し、考え、分析し、描写した歴史を、これまで、私は知らなかった。というよりも、歴史にオルタナティブな側面があるということ、あるいは、正統とされている歴史の裏側に、別の視点から見たまったく別の歴史が存在し得るという、考えてみれば当たり前の現実を、私は、うかつにも見落としていたのである。
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