竣工からわずか8カ月で千葉県市川市の第1庁舎南側外装のルーバーに複数の損傷が見つかった問題に動きがあった。市が原因調査を依頼していた建築研究振興協会(東京・港)が2021年8月30日、市に対して「破損は地震の影響によるものではなく、プレキャストコンクリート(PCa)の温度変化による伸縮や乾燥収縮によるものと推定される」といった見解を示していたことが日経クロステックの取材で分かった。
市川市第1庁舎は地下1階・地上7階建てで、延べ面積は約3万480m2。設計・監理は山下設計、施工は竹中工務店・大城組特定建設工事共同企業体(JV)が手掛けた。20年7月に竣工し、翌8月から一部で業務を開始した。
外観の特徴は、日照による空調負荷を減らすために南側全面に設置したPCaの水平ルーバーだ。1枚当たり長さ約5.3m、幅約66cm、厚さ約2.8cmのPCa版(ルーバー)を並べ、建物側から張り出したT形鋼で支えていた。ルーバーとT形鋼のジョイント部分にはスタッドジベルやシアキーを配し、無収縮モルタルを充填していた。PCa版を製作した企業について竹中工務店は「回答を差し控える」としている。
ルーバーの損傷が発覚したのは21年3月。市民から指摘を受けた市が調べた結果、数十カ所に亀裂などが見つかった。このとき見つかった損傷は、「PCa版の端部に生じた亀裂」「PCa版と無収縮モルタルの継ぎ目に生じたひび割れ」の2パターンだ。建築研究振興協会は、温度変化による伸縮や乾燥収縮でルーバーが変形し、モルタルとの継ぎ目付近に損傷が発生した可能性が高いとみている。
自社で調査を実施した山下設計も建築研究振興協会と同様の見解を示している。市庁舎整備担当室は「温度変化による伸縮や乾燥収縮に配慮した設計、施工が必要だったはずだ」と指摘する。山下設計は日経クロステックの取材に対して「再発防止策の検討を進めている」と回答した。
21年9月末時点で是正方法は決まっておらず、ルーバーとジョイント部には補強テープを貼った状態が続いている。市は建築研究振興協会に対して、山下設計などが提示した是正方法の評価を含めて最終報告を取りまとめるように依頼している。報告を踏まえて、是正方法を正式に決定する考えだ。