老後生活の収入の柱になるのが「老齢年金」ですが、年金制度にまつわることは、難しい用語が多くて、ますます不安になってしまう人もいるのではないでしょうか。そんな年金初心者の方の疑問に、専門家が回答します。
今回は、老齢厚生年金が全額支給停止になっていた場合についてです。
Q:老齢厚生年金が全額支給停止に。この場合は繰下げ受給の扱いになるのでしょうか?
「現在69歳の男性です。年金の手続きは60歳で行いましたが、働いていたので、老齢厚生年金が全額支給停止に。この場合は繰下げ受給の扱いになるのでしょうか?」(匿名希望)A:「在職老齢年金」で全額支給停止になったということ。繰下げ受給にはなりません
相談者は令和4年(2022年)7月時点で69歳とのこと。つまり昭和28年(1953年)生まれの男性ですので、60歳または61歳から、「特別支給の老齢厚生年金」をもらえる世代です。ところが、60代前半で会社員として厚生年金に加入しながら働いている場合は、「在職老齢年金」制度によって、老齢厚生年金が一部または全額支給停止される可能性があります。
「在職老齢年金」制度とは、毎月の給与収入等(年収・賞与等の12分の1)と老齢厚生年金の基本月額(年額の老齢厚生年金の12分の1)を足した金額が一定額(47万円)を超えると、老齢厚生年金が一部または全額支給停止になってしまうものです。「特別支給の老齢厚生年金」も、同様に「在職老齢年金」の対象になります。
相談者のように、「在職老齢年金」制度により、全額支給停止になっていた老齢厚生年金は、残念ながら後から受給することはできません。そもそも、60代前半で支給される「特別支給の老齢厚生年金」は、繰下げ受給することができないのです。
働いていた人は65歳以降に、老齢基礎年金と本来支給の老齢厚生年金が支給されます。65歳以降に厚生年金に加入して会社員で働く場合、どんなに年収等が高くても、老齢基礎年金は全額支給されます。
一方で老齢厚生年金は、「在職老齢年金」制度によって60代前半の「特別支給の老齢厚生年金」同様に、支給停止になることがあります。支給停止された老齢厚生年金については、「特別支給の老齢厚生年金」同様に、繰下げをしたことにはなりません。
文:拝野 洋子(ファイナンシャルプランナー、社会保険労務士)
銀行員、税理士事務所勤務などを経て自営業に。晩婚で結婚・出産・育児した経験から、日々安心して暮らすためのお金の知識の重要性を実感し、メディア等で情報発信を行う。現在は年金事務所にて、年金相談員も担当している。