料理(煮物、炒め物)に水と油は必要か
フランス在住のF爺のブログ記事だが、「野菜自体から出る汁で野菜その他を煮る(炒める)」というのは、私の料理の基本でもある。下の記事は「凝りすぎ」に思える。
(以下引用)
(以下引用)
水も油も無しで普通の鍋で調理する画期的な方法
- 2020/01/27
- 21:14
窮余の一策から生まれた意外に簡単な調理法を紹介します。
年末年始の休暇中、老友数人と誘い合って、山の中の某所の長年誰も住んでいない一軒家に大きなタジン鍋(*)を持って行き、夕食を作って一泊して帰ろうという計画を立てました。
(*)「タジン鍋」は、北アフリカ発祥の陶製の無水調理鍋の名前です。日本でも近年は見掛けるようになりましたが、まだまだ万人が知っている物ではないようです。
その家には、水道は元々通っていないし、古い井戸も何年も使っていないからゴミだらけで飲料には使えないということでした。鍋や皿を洗い、洗顔もするためには、水も持って行かなくてはなりません。電気も無し。電線は繋がっているけれども解約してしまっているのだそうです。懐中電灯と蝋燭(ろうそく)を持って行かなければなりません。燃料の薪は、「盗まれていなければあるはず」だということです。一泊二日分の食料と飲み物を買い込み、準備万端整えて出掛けました。
到着して最初にすることは、大掃除です。なにしろ蜘蛛(くも)の巣だらけ、埃(ほこり)だらけです。大勢でわいわいやっていると、苦にもならないし、手早く済みます。それから暖炉に火を熾(おこ)しました。これは、幼児期に電気の無い生活をしたことのある「長老」のF爺の役割です。
都会人にとっては、偶(たま)に一晩と翌朝だけ「100年前のような生活」をしてみる機会は、滅多に無い楽しいひと時です。
火が赤々と燃え始めたところで暖炉の前に集まりました。和気藹々とお喋りをしながら総勢で野菜を刻み始めたのですが・・・荷物からタジン鍋を取り出した男(*)の手から、どうした弾みか、そのタジン鍋が床に落ちて粉々に割れてしまったのです。
(*) その男がタジン鍋の持ち主でした。失敗した人が持ち主に恨まれるという事態にならなかったのが好運でした。
一瞬、皆のナイフを操っていた手が動きを止めます。
《どうしよう》
とみんな思っていますが、解決策を言うのでなければ口を開く意味は無いと全員が知っています。親友同士ですから、鍋を取り落した男を責めるようなことは誰も言いません。
F爺が立ち上がって、鍋の破片を拾い集め始めました。尖った破片で怪我をする人が出てはいけません。一通り片付いたところで、箒(ほうき)で掃き清めます。
その間に、皆の気持ちが落ち着いたようです。調理をどうするかという相談が始まりました。
鋳物の鍋が台所にありました。借りて使って、後で綺麗に洗っておけば大丈夫でしょう。
困ったのは、タジン鍋で調理するつもりだったため、煮物をする時に必要なブイヨンや調味料の持ち合わせが無いことです。たくさん持って来た野菜をただ湯掻いただけでは、美味しく食べられません。
日本と違ってフランスでは、24時間営業の商店というものは、ごくごく稀なものなのです。誰かの自宅に行って来ようとすると、片道だけでも一時間以上かかる距離です。困ったことになりました。
「バターなら朝飯用のつもりで持って来たのがあるけど、炒め物にしてみる?」
と一人が言います。
「駄目!」
「駄目!」
という声がすぐに上がりました。バターで調理した物が消化できない年齢の人は、F爺だけではないのです。
「オリーブ油・・・あ、これしか無い。人数分のサラダ・ドレッシングと炒め物が出来るような量じゃない」
F爺が一つ提案しました。
「理論的には可能なはずの無水調理法がある。試してみるよ」
「どうするの」
「まあ、見てて」
というわけで、十年ぐらい前にタジン鍋の原理を理解しようとしていた時に閃(ひらめ)いたけれども実行したことは無い無水調理法を試すことにしました。
鋳物の大鍋に大雑把に刻んだキャベツ、アンディーヴ、ズッキーニ、カリフラワー、トマトを少量ずつ入れ、醤油を少し垂らします。ぴったりの蓋をして、そのまま暖炉の直火に掛けてみます。すぐにジュージュー音がし始めました。1分ほどで蓋を開けます。掻き交ぜてみると、計算通りの結果になっていました。醤油の塩分が野菜から水を引き出すため、焦げ付いていません。底には、醤油を薄めた色をした液体が1mmぐらいの深さで溜まっています。
「実験、成功。残りの野菜も全部入れて。あ、違う。ピーマンと青玉葱だけは後から入れる」
蓋をします。1分ぐらいで、またジュージュー。蓋を開けて掻き交ぜます。もう一度、蓋。2分後、また蓋を開けて掻き交ぜ、今度は豚足(とんそく)の塩漬けを生煮(なまに)えの野菜の上に載せます。そして蓋。
5~6分後、刻んだピーマンと青玉葱を加え、蓋をしたままの鍋を火から下(おろ)して木製の台に載せます。10分ぐらい静置して蒸しておくと、出来上がりになるはずです。
静置する間に前菜を食べ始めました。皆が口々に質問します。
「無水調理鍋じゃないのに、水も油も無しで火に掛けて焦げ付かないなんて、初めて見た。どういう原理なの」
「野菜自体が含んでいる水分を引き出して調理に使うの。鍋の底に液体成分が溜まって、その上に蒸気が充満するようにする。タジン鍋と同じ原理だけど、醤油の塩分を利用したところが違う。固形の塩でも出来るかもしれないけど、液体のほうが確実だと思ったから醤油を使ったんだ」
「F爺は、日本人だから、醤油を持って来ていたんだよね。俺たちだけだったら発想がそもそもあり得ない」
そう言っているうちに皆が前菜を食べ終わりました。大鍋を食卓の真ん中に持って来ます。みんな、思わず立ち上がって、鍋の中を見やりました。
「美味しそうだね。ピーマンの彩りもいいし、間に合わせ料理には見えない」
「調味料は?」
「必要無いはず。試食してみて」
「ん、旨い。驚き!」
「本当だ。旨い」
F爺も食べてみます。野菜が一部分煮崩れしていて、醤油の薄味が付いています。それ以外には、タジン鍋で調理した味と変りません。豚足の塩漬けの味と野菜自体の味が渾然一体になって、立派な主菜になっています。
俄然、ビールとパンの消費量が上がりました。
主菜の後は、生野菜のサラダ。その場で、オリーヴ油とレモンを絞った汁と芥子(からし)と塩でドレッシングを作ります。それからチーズとワイン。そしてデザート。お腹一杯です。お喋りも弾みました。
この調理法の纏め
この日の後、鋳物ではない鍋を使ってみたり、醤油の代わりに固形の塩を使ってみたり、いろいろ試しました。その結果、次のことが分りました。
# 鍋は、鋳物が一番良い。フライパンでも出来る。蒸気を逃(にが)さないように蓋がぴったりしていることが重要。
# 醤油が最適。塩を使うなら「濃い塩水」にすると焦げ付かない。醤油の分量は、野菜300gに対してスープ用のスプーンに半杯ほど。
# アルザス料理に良く使う「豚足の塩漬け」のほか、羊肉、鶏肉でも美味しいものが出来る。
# 火を使う時間は、水炊きにしたり炒めたり揚げたりする場合よりも短い。燃料の節約にもなる。まだ生煮えの状態で火から下した後、鍋の底が冷えないようにして10分ほど蒸すのがコツ。
# 麺類やお米を予(あらかじ)め水か湯に浸けておいたものを途中で加えると野菜の水を吸って味の沁み込んだものが出来る。炊き込みご飯とは違った料理になる。
# 水も油も使わないから、野菜自体の味が濃厚に楽しめる。醤油以外の調味料は要らない。
・・・というわけで、F爺家では今や定番の(!)調理法になりました。
まだ試していませんが、豆腐や白身の魚の切り身もこの方法で美味しく調理できるはずです。卵料理も好いかもしれません。日本に住んでいる人は、蒲鉾(かまぼこ)も試してみる価値がありそうです。
試してみた方がいらっしゃいましたら、結果をお知らせください。
年末年始の休暇中、老友数人と誘い合って、山の中の某所の長年誰も住んでいない一軒家に大きなタジン鍋(*)を持って行き、夕食を作って一泊して帰ろうという計画を立てました。
(*)「タジン鍋」は、北アフリカ発祥の陶製の無水調理鍋の名前です。日本でも近年は見掛けるようになりましたが、まだまだ万人が知っている物ではないようです。
その家には、水道は元々通っていないし、古い井戸も何年も使っていないからゴミだらけで飲料には使えないということでした。鍋や皿を洗い、洗顔もするためには、水も持って行かなくてはなりません。電気も無し。電線は繋がっているけれども解約してしまっているのだそうです。懐中電灯と蝋燭(ろうそく)を持って行かなければなりません。燃料の薪は、「盗まれていなければあるはず」だということです。一泊二日分の食料と飲み物を買い込み、準備万端整えて出掛けました。
到着して最初にすることは、大掃除です。なにしろ蜘蛛(くも)の巣だらけ、埃(ほこり)だらけです。大勢でわいわいやっていると、苦にもならないし、手早く済みます。それから暖炉に火を熾(おこ)しました。これは、幼児期に電気の無い生活をしたことのある「長老」のF爺の役割です。
都会人にとっては、偶(たま)に一晩と翌朝だけ「100年前のような生活」をしてみる機会は、滅多に無い楽しいひと時です。
火が赤々と燃え始めたところで暖炉の前に集まりました。和気藹々とお喋りをしながら総勢で野菜を刻み始めたのですが・・・荷物からタジン鍋を取り出した男(*)の手から、どうした弾みか、そのタジン鍋が床に落ちて粉々に割れてしまったのです。
(*) その男がタジン鍋の持ち主でした。失敗した人が持ち主に恨まれるという事態にならなかったのが好運でした。
一瞬、皆のナイフを操っていた手が動きを止めます。
《どうしよう》
とみんな思っていますが、解決策を言うのでなければ口を開く意味は無いと全員が知っています。親友同士ですから、鍋を取り落した男を責めるようなことは誰も言いません。
F爺が立ち上がって、鍋の破片を拾い集め始めました。尖った破片で怪我をする人が出てはいけません。一通り片付いたところで、箒(ほうき)で掃き清めます。
その間に、皆の気持ちが落ち着いたようです。調理をどうするかという相談が始まりました。
鋳物の鍋が台所にありました。借りて使って、後で綺麗に洗っておけば大丈夫でしょう。
困ったのは、タジン鍋で調理するつもりだったため、煮物をする時に必要なブイヨンや調味料の持ち合わせが無いことです。たくさん持って来た野菜をただ湯掻いただけでは、美味しく食べられません。
日本と違ってフランスでは、24時間営業の商店というものは、ごくごく稀なものなのです。誰かの自宅に行って来ようとすると、片道だけでも一時間以上かかる距離です。困ったことになりました。
「バターなら朝飯用のつもりで持って来たのがあるけど、炒め物にしてみる?」
と一人が言います。
「駄目!」
「駄目!」
という声がすぐに上がりました。バターで調理した物が消化できない年齢の人は、F爺だけではないのです。
「オリーブ油・・・あ、これしか無い。人数分のサラダ・ドレッシングと炒め物が出来るような量じゃない」
F爺が一つ提案しました。
「理論的には可能なはずの無水調理法がある。試してみるよ」
「どうするの」
「まあ、見てて」
というわけで、十年ぐらい前にタジン鍋の原理を理解しようとしていた時に閃(ひらめ)いたけれども実行したことは無い無水調理法を試すことにしました。
鋳物の大鍋に大雑把に刻んだキャベツ、アンディーヴ、ズッキーニ、カリフラワー、トマトを少量ずつ入れ、醤油を少し垂らします。ぴったりの蓋をして、そのまま暖炉の直火に掛けてみます。すぐにジュージュー音がし始めました。1分ほどで蓋を開けます。掻き交ぜてみると、計算通りの結果になっていました。醤油の塩分が野菜から水を引き出すため、焦げ付いていません。底には、醤油を薄めた色をした液体が1mmぐらいの深さで溜まっています。
「実験、成功。残りの野菜も全部入れて。あ、違う。ピーマンと青玉葱だけは後から入れる」
蓋をします。1分ぐらいで、またジュージュー。蓋を開けて掻き交ぜます。もう一度、蓋。2分後、また蓋を開けて掻き交ぜ、今度は豚足(とんそく)の塩漬けを生煮(なまに)えの野菜の上に載せます。そして蓋。
5~6分後、刻んだピーマンと青玉葱を加え、蓋をしたままの鍋を火から下(おろ)して木製の台に載せます。10分ぐらい静置して蒸しておくと、出来上がりになるはずです。
静置する間に前菜を食べ始めました。皆が口々に質問します。
「無水調理鍋じゃないのに、水も油も無しで火に掛けて焦げ付かないなんて、初めて見た。どういう原理なの」
「野菜自体が含んでいる水分を引き出して調理に使うの。鍋の底に液体成分が溜まって、その上に蒸気が充満するようにする。タジン鍋と同じ原理だけど、醤油の塩分を利用したところが違う。固形の塩でも出来るかもしれないけど、液体のほうが確実だと思ったから醤油を使ったんだ」
「F爺は、日本人だから、醤油を持って来ていたんだよね。俺たちだけだったら発想がそもそもあり得ない」
そう言っているうちに皆が前菜を食べ終わりました。大鍋を食卓の真ん中に持って来ます。みんな、思わず立ち上がって、鍋の中を見やりました。
「美味しそうだね。ピーマンの彩りもいいし、間に合わせ料理には見えない」
「調味料は?」
「必要無いはず。試食してみて」
「ん、旨い。驚き!」
「本当だ。旨い」
F爺も食べてみます。野菜が一部分煮崩れしていて、醤油の薄味が付いています。それ以外には、タジン鍋で調理した味と変りません。豚足の塩漬けの味と野菜自体の味が渾然一体になって、立派な主菜になっています。
俄然、ビールとパンの消費量が上がりました。
主菜の後は、生野菜のサラダ。その場で、オリーヴ油とレモンを絞った汁と芥子(からし)と塩でドレッシングを作ります。それからチーズとワイン。そしてデザート。お腹一杯です。お喋りも弾みました。
この調理法の纏め
この日の後、鋳物ではない鍋を使ってみたり、醤油の代わりに固形の塩を使ってみたり、いろいろ試しました。その結果、次のことが分りました。
# 鍋は、鋳物が一番良い。フライパンでも出来る。蒸気を逃(にが)さないように蓋がぴったりしていることが重要。
# 醤油が最適。塩を使うなら「濃い塩水」にすると焦げ付かない。醤油の分量は、野菜300gに対してスープ用のスプーンに半杯ほど。
# アルザス料理に良く使う「豚足の塩漬け」のほか、羊肉、鶏肉でも美味しいものが出来る。
# 火を使う時間は、水炊きにしたり炒めたり揚げたりする場合よりも短い。燃料の節約にもなる。まだ生煮えの状態で火から下した後、鍋の底が冷えないようにして10分ほど蒸すのがコツ。
# 麺類やお米を予(あらかじ)め水か湯に浸けておいたものを途中で加えると野菜の水を吸って味の沁み込んだものが出来る。炊き込みご飯とは違った料理になる。
# 水も油も使わないから、野菜自体の味が濃厚に楽しめる。醤油以外の調味料は要らない。
・・・というわけで、F爺家では今や定番の(!)調理法になりました。
まだ試していませんが、豆腐や白身の魚の切り身もこの方法で美味しく調理できるはずです。卵料理も好いかもしれません。日本に住んでいる人は、蒲鉾(かまぼこ)も試してみる価値がありそうです。
試してみた方がいらっしゃいましたら、結果をお知らせください。
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