富の不平等への不満を封じる思想
つまり、現世で高い身分や地位に就き、富を得ている人々は前世の善行の結果なのだからそれを憎むべきではない、という思想になる。と同様に、キリスト教の予定調和説でも、現世の富裕者などは神の恩恵を得ているのだから、それを憎むべきではない、となる。つまり、富の平等化という社会主義的社会改革は不可だ、という話に導かれるわけである。どちらも実に、上級国民にとって都合のいい思想である。
(以下引用)
巨大製薬会社を含む利権集団の利権を脅かす革命的な薬品や医療技術が発見された場合、そうした薬品や医療技術は抹殺されるだろうことを新型コロナウイルス(COVID-19)は再確認させた。それらが革命的であればあるほど、つまり全人類にとって有益であればあるほど、そうした反応は強くなるはずだ。
世界の利権集団は富豪の集まりである。新約聖書には「金持ちが神の国に入るよりも、らくだが針の穴を通る方がまだ易しい」と書かれているのだが、「宗教改革」後、違う考えが現れる。
つまり、「神は人類うち永遠の生命に予定された人びと」を選んだのだが、「これはすべて神の自由な恩恵と愛によるものであって、決して信仰あるいは善き行為」のためではないというのだ。(マックス・ウェーバー著、大塚久雄訳『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』岩波書店、1989年)
この革命的な解釈変更で「強欲は善」ということになり、富豪は平穏な日々を過ごせるようになった。神に選ばれた人びとは豊かになり、選ばれなかった人びとは貧しくなるという考え方にもつながる。
この富豪とはフランクリン・ルーズベルトが言うところの私的権力であり、そうした「私的権力が自分たちの民主的国家そのものより強くなることを人びとが許すならば、民主主義の自由は危うくなる。本質的に、個人、グループ、あるいは私的権力をコントロールする何らかの存在による政府の所有こそがファシズムだ。」
1970年代から推進された「民営化」の目的は国家を上回る私的権力を作り上げることにあった。そうしたシステムのルールとしてTPP(環太平洋連携協定)、TTIP(環大西洋貿易投資協定)、TiSA(新サービス貿易協定)は打ち出された。「富める者が富めば貧しい者にも富がしたたり落ちる」という「トリクルダウン理論」は人びとをファシズムへと導く虚言だ。新型コロナウイルスを使い、ファシズムの世界への突破口を開こうとしている人びともいる。