中村うさぎインタビュー(3)
──そんな禁欲生活を送っていたのに、なぜホストにハマったんですか?
中村 禁欲ではないです。性欲や恋愛欲求を我慢してたわけではないので。ただもう本当に心から「男なんかいらない」時期だったんです。でもその8年の「鉄の処女期」の間に私はすっかり「女の旬」を過ぎてしまった。そのことに気づいたとき、私の中に再び「女としての承認欲求」が蘇ったんですね。若いころとは違って焦りを強く含んだ恋愛欲求です。
そこに、ホストが現れた。女客との仮想恋愛のプロですよ。旬を過ぎて焦っていた私は簡単に手に入る恋愛に飛びついてしまったんだと思います。でも結果的に手に入ったのは「女としての充足感」ではなく、「騙された!」という屈辱感だったわけですが(苦笑)。
私がハマったホストというのが、ものすごくバカだったんですよ。本当に無教養で頭が悪かった。だから、「こんなバカに騙されたなんて、私もっとバカじゃん!」と愕然としました。どんだけバカだったかというと、くらたま(倉田真由美)と一緒にホストクラブに行ったとき、彼女が真顔でこう言ったくらいです。「こんなに頭が悪い人たちと話したのは、これまでの人生で初めてかもしれない」って(笑)。
──唖然とするほどのバカさ(笑)。
中村 でも、くらたまの反応も当然だと思う。だって私たちの周りにいる編集者とかってどんなにチャラチャラしててもいわゆる一流大学出てたりするし、知的水準だって決して低くないですからね。くらたま自身、一橋大学を出ているわけですし。でも、私の指名したホストの無知と無教養には目をみはるものがあった。「サルが人間に進化する狭間のミッシングリンクはこいつだった!」とか冗談で言ったくらいです。
──のちに整形にハマったときは、雑誌の企画とも連動していましたよね。ホストにハマったのは純然たる好奇心からだったんですか?
中村 最初はまさに好奇心でしたね。新宿二丁目で遊ぶのに飽きて、女友達と「通りを超えて歌舞伎町行ってみるかー」と軽い気持ちで足を踏み入れたんです。で、さっきも言ったように、今まで見たこともない人種に出会った。見たこともないほど美形で、見たこともないバカな男ね(笑)。
当然、「こんなバカが私を騙せるわけがない」と見下していたんですが、甘かったですね。ホストは騙しのプロだった。よく野球なんかのスポーツ記事で五角形のレーダーチャートが載っているじゃないですか。「守備力」「打撃」「走力」とかが一目でわかるグラフ。あれでいうと、ホストって他は何もできないくせに人を騙す能力だけは突出して高いんです。
それでホストにハマってまんまと騙されて、女として終わりかけているんじゃないかという焦りにますます拍車がかかった。「こんなバカ男に騙されるなんて、私はもう女として終わってるんじゃない?」「ていうか私ってもはや男には欲情されないのかな?」って。要するに女としての市場価値が暴落していることをホストクラブで思い知らされたわけです。そこで見た目の若さを取り戻そうとして、整形に走ったんですね。
──出会い系などに傾倒していったのも同じ流れですか?
中村 うん、同じ。「まだ自分は女として求められている」と安心したかったんです。私の場合、出会い系サイトで会った男とは、よっぽどのことがないとホテルまで行かないんですよ。大抵は向こうが行きたそうにしているのを見て、満足した時点で終了。そこが私のツボだったんだと思います。
──傍から見てわからないのは、中村さんは作家としての社会的ステータスもあるし、ファンもいれば収入もある。つまり何ひとつ不自由ないはずなのに、なぜ「もっと、もっと!」と求めるかということなんです。
中村 その疑問は、東電OLの話にも通じると思う。東電の総合職といえば、少なくとも当時はエリート街道そのもの。「それなのに、なぜ立ちんぼなんてやってたのか?」という疑問と衝撃を世間に与えたわけじゃないですか。私があの事件で興味深かったのは、一部の女性たちから「その気持ちわかる」という共感を集めたことなんですよね。その人たちは売春なんて関係のない世界で生きているんだけど、「東電OLは私かもしれない」という思いがあった。
やっぱり女が社会の中でバリバリ仕事していくと、社会的成功とは裏腹に失うものも多くなるわけですよ。たとえば婚期や出産のタイミングも逃すでしょうし、女としての旬を仕事に捧げてしまうと何か重要なものを犠牲にしたような気持ちになる。「出世することが果たして女としての幸せなのか?」という自問は、常につきまとうんじゃないかな。特にあの当時はね。
──そこは男側が見落としがちなポイントかもしれません。
中村 根本から違うんだと思いますよ。男の場合はどんなブサイクで生まれてきても、社会的な成功や富によって綺麗なトロフィーワイフをゲットすることも可能じゃないですか。だけど女の場合は、それがなかなか難しい。地位や富や名声がモテと結びつかないんですよ。いや、むしろモテを遠ざける。
ましてや私たちみたいな作家や漫画家といった人種は、名前が知られるほど恋愛しにくくなるんですね。なぜなら、作品の題材として書いちゃうから。私はもちろん、(内田)春菊さんにしても、岩井志麻子にしても、くらたまにしても、自分の恋愛を赤裸々に書いちゃうでしょ。これじゃ男から警戒されますよね(笑)。
──「男からチヤホヤされたい」という気持ちは、病気を経てどのように変わりました?
中村 退院直後は気持ちの面では変わらなかったけど、現実問題としてデートもセックスも諦めざるを得なくなると、その欲求も薄れていきましたね。退院直後はドラクエとかのオンラインゲーム上でイチャイチャしてました。「どんなエッチが好きなの?」とかチャットでやりとりしてね。
──ドラクエということは、相手が子どもかもしれないじゃないですか。
中村 そうなのよ! 一度なんか相手が小学生なのに気づいて慌てたことがありました(笑)。私は下ネタ大好きなんだけど、中学生の子に下ネタ言ってたらその子の親から怒られたこともあった。横から会話を見ていたお母さんが「こんな下品な人とは遊んじゃいけません!」って(笑)。まぁ、私も「チン毛、生えた?」とか普通に訊いてたからね。でも、もともとは本人が「チン毛がまだ生えない」って言い出したのよ? だから会うたびに挨拶代わりに「よぉ、チン毛生えたかー?」って訊いてたら、ついに親から怒られちゃった(笑)。
でもまぁ、最近はオンライン上のバーチャル恋愛も飽きてぱったりとやめた。本当に性欲も恋愛願望も一切ないもんなぁ。たまにオナニーはするんですよ。でも私のオナニーはセックスの代替行為ではないの。マッサージみたいなもので「肩が凝ったから、マッサージでも受けるか」という感覚。「あー、なんか気持ちいいことしたい……そうだ、オナニーしよっと」みたいな感じなんです。そこにロマンティックな要素は一切ないですね。
中村 禁欲ではないです。性欲や恋愛欲求を我慢してたわけではないので。ただもう本当に心から「男なんかいらない」時期だったんです。でもその8年の「鉄の処女期」の間に私はすっかり「女の旬」を過ぎてしまった。そのことに気づいたとき、私の中に再び「女としての承認欲求」が蘇ったんですね。若いころとは違って焦りを強く含んだ恋愛欲求です。
そこに、ホストが現れた。女客との仮想恋愛のプロですよ。旬を過ぎて焦っていた私は簡単に手に入る恋愛に飛びついてしまったんだと思います。でも結果的に手に入ったのは「女としての充足感」ではなく、「騙された!」という屈辱感だったわけですが(苦笑)。
私がハマったホストというのが、ものすごくバカだったんですよ。本当に無教養で頭が悪かった。だから、「こんなバカに騙されたなんて、私もっとバカじゃん!」と愕然としました。どんだけバカだったかというと、くらたま(倉田真由美)と一緒にホストクラブに行ったとき、彼女が真顔でこう言ったくらいです。「こんなに頭が悪い人たちと話したのは、これまでの人生で初めてかもしれない」って(笑)。
──唖然とするほどのバカさ(笑)。
中村 でも、くらたまの反応も当然だと思う。だって私たちの周りにいる編集者とかってどんなにチャラチャラしててもいわゆる一流大学出てたりするし、知的水準だって決して低くないですからね。くらたま自身、一橋大学を出ているわけですし。でも、私の指名したホストの無知と無教養には目をみはるものがあった。「サルが人間に進化する狭間のミッシングリンクはこいつだった!」とか冗談で言ったくらいです。
──のちに整形にハマったときは、雑誌の企画とも連動していましたよね。ホストにハマったのは純然たる好奇心からだったんですか?
中村 最初はまさに好奇心でしたね。新宿二丁目で遊ぶのに飽きて、女友達と「通りを超えて歌舞伎町行ってみるかー」と軽い気持ちで足を踏み入れたんです。で、さっきも言ったように、今まで見たこともない人種に出会った。見たこともないほど美形で、見たこともないバカな男ね(笑)。
当然、「こんなバカが私を騙せるわけがない」と見下していたんですが、甘かったですね。ホストは騙しのプロだった。よく野球なんかのスポーツ記事で五角形のレーダーチャートが載っているじゃないですか。「守備力」「打撃」「走力」とかが一目でわかるグラフ。あれでいうと、ホストって他は何もできないくせに人を騙す能力だけは突出して高いんです。
それでホストにハマってまんまと騙されて、女として終わりかけているんじゃないかという焦りにますます拍車がかかった。「こんなバカ男に騙されるなんて、私はもう女として終わってるんじゃない?」「ていうか私ってもはや男には欲情されないのかな?」って。要するに女としての市場価値が暴落していることをホストクラブで思い知らされたわけです。そこで見た目の若さを取り戻そうとして、整形に走ったんですね。
──出会い系などに傾倒していったのも同じ流れですか?
中村 うん、同じ。「まだ自分は女として求められている」と安心したかったんです。私の場合、出会い系サイトで会った男とは、よっぽどのことがないとホテルまで行かないんですよ。大抵は向こうが行きたそうにしているのを見て、満足した時点で終了。そこが私のツボだったんだと思います。
──傍から見てわからないのは、中村さんは作家としての社会的ステータスもあるし、ファンもいれば収入もある。つまり何ひとつ不自由ないはずなのに、なぜ「もっと、もっと!」と求めるかということなんです。
中村 その疑問は、東電OLの話にも通じると思う。東電の総合職といえば、少なくとも当時はエリート街道そのもの。「それなのに、なぜ立ちんぼなんてやってたのか?」という疑問と衝撃を世間に与えたわけじゃないですか。私があの事件で興味深かったのは、一部の女性たちから「その気持ちわかる」という共感を集めたことなんですよね。その人たちは売春なんて関係のない世界で生きているんだけど、「東電OLは私かもしれない」という思いがあった。
やっぱり女が社会の中でバリバリ仕事していくと、社会的成功とは裏腹に失うものも多くなるわけですよ。たとえば婚期や出産のタイミングも逃すでしょうし、女としての旬を仕事に捧げてしまうと何か重要なものを犠牲にしたような気持ちになる。「出世することが果たして女としての幸せなのか?」という自問は、常につきまとうんじゃないかな。特にあの当時はね。
──そこは男側が見落としがちなポイントかもしれません。
中村 根本から違うんだと思いますよ。男の場合はどんなブサイクで生まれてきても、社会的な成功や富によって綺麗なトロフィーワイフをゲットすることも可能じゃないですか。だけど女の場合は、それがなかなか難しい。地位や富や名声がモテと結びつかないんですよ。いや、むしろモテを遠ざける。
ましてや私たちみたいな作家や漫画家といった人種は、名前が知られるほど恋愛しにくくなるんですね。なぜなら、作品の題材として書いちゃうから。私はもちろん、(内田)春菊さんにしても、岩井志麻子にしても、くらたまにしても、自分の恋愛を赤裸々に書いちゃうでしょ。これじゃ男から警戒されますよね(笑)。
──「男からチヤホヤされたい」という気持ちは、病気を経てどのように変わりました?
中村 退院直後は気持ちの面では変わらなかったけど、現実問題としてデートもセックスも諦めざるを得なくなると、その欲求も薄れていきましたね。退院直後はドラクエとかのオンラインゲーム上でイチャイチャしてました。「どんなエッチが好きなの?」とかチャットでやりとりしてね。
──ドラクエということは、相手が子どもかもしれないじゃないですか。
中村 そうなのよ! 一度なんか相手が小学生なのに気づいて慌てたことがありました(笑)。私は下ネタ大好きなんだけど、中学生の子に下ネタ言ってたらその子の親から怒られたこともあった。横から会話を見ていたお母さんが「こんな下品な人とは遊んじゃいけません!」って(笑)。まぁ、私も「チン毛、生えた?」とか普通に訊いてたからね。でも、もともとは本人が「チン毛がまだ生えない」って言い出したのよ? だから会うたびに挨拶代わりに「よぉ、チン毛生えたかー?」って訊いてたら、ついに親から怒られちゃった(笑)。
でもまぁ、最近はオンライン上のバーチャル恋愛も飽きてぱったりとやめた。本当に性欲も恋愛願望も一切ないもんなぁ。たまにオナニーはするんですよ。でも私のオナニーはセックスの代替行為ではないの。マッサージみたいなもので「肩が凝ったから、マッサージでも受けるか」という感覚。「あー、なんか気持ちいいことしたい……そうだ、オナニーしよっと」みたいな感じなんです。そこにロマンティックな要素は一切ないですね。
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