感動のシーンかグロテスクな見せ物か
それはともかく、優里さんの急性脳症の原因が予防接種だったというのも気になる。はたしてちゃんと賠償金は取れたのだろうか。アメリカなどなら数億円の賠償金が出されてもおかしくない事例だと思うが、日本ではこういう予防接種の副作用での重篤な障害に多額の賠償金が出たという話を聞いたことがないように思う。
立って歩く姿を友だちが見てくれたよ--。東京都北区の特別支援学校に通う高橋優里(ゆうり)さん(12)が26日、初めて参加した区立王子第一小学校の運動会で車椅子から立ち上がり、約10メートル歩いた。「今日は100点満点だったね」と母の育恵さん(47)。両親、そして同級生に笑顔が広がった。
曇り空の下、午前10時半に6年生の100メートル走が始まった。白色のゴールテープの約20メートル手前には最終ランナーの優里さん。車椅子を降り、育恵さんに両脇を抱えられ、か細い両足を交互に踏み出す。「頑張れ!」。約20人の同級生から声援が飛んだ。よろめきながら、あと少し。ゴールテープを切ると、割れるような拍手を浴びた。タイムは1分5秒だった。
11年前、1歳で受けた予防接種が原因でウイルス性の急性脳症になった。「ママ」「いいよ(嫌よ)」と話し始めたばかりだったのに。つかまり歩きしていた両足も不自由になった。涙が止まらなかった育恵さん。でも、懸命に生きる姿を見せてくれる。「くよくよ泣いても元には戻らない。前じゃなくてもいいから一緒に進もう」
病気にならなければ進学するはずだった王子第一小に「副籍」として通い始めたのは1年生の時。2週間に1度、図工や音楽などの授業を一緒に受けた。友だちから恋の悩みを打ち明けられ、「ウフフ」と笑って返した。休み時間には車椅子を押されながら一緒に鬼ごっこもした。
心を通わせた6年間の小学校生活最後の運動会。育恵さんが「出る?」と聞くと、うなずいた。自力で立って歩きたがり、5月からリハビリに取り組んだ。「優里は友だちが大好き。これまでの感謝の気持ちを伝えたくて、走るところを見せたかったんだと思う。みんなの声が優里の心と足を動かしてくれた」と育恵さん。荒木康子校長も笑顔で言った。
「優里ちゃんがいたからこそ、違いを自然に受け止められる子どもたちが育った。ゴールテープは、みんなの卒業の証しです」【坂根真理】
◇副籍
障害のある子どもと、ない子ども、地域の交流を目的にしたもの。支援籍、副学籍とも呼ばれる。特別支援学校の小中学部に在籍する児童・生徒が、地域の小中学校に副次的な籍を持つ。保護者らが希望して学校側が認めれば、各種の学校行事や授業に参加できる。東京都は2007年度から実施。文部科学省によると、埼玉、岩手、岐阜の各県などでも行われている。