「江戸時代の飛脚の足が速かったり、ごく普通の人が1日に10里(約40キロ)も平気で歩いていたのには、ちゃんと理由があるんです。特別な体力や才能があったわけではありません」
総合格闘家の草分け的存在で、都内や千葉県で武術道場「ストライプル」を主宰する平直行さん(55)はそう語る。さまざまな格闘技やトレーニングを経験したのち、12年ほど前から古武術の柳生心眼流(やぎゅうしんがんりゅう)を学んでいる平さんは、古きを温めていろんなことに気づいた。
飛脚を描いた絵や写真を見ればわかるが、彼らは信書や為替などを入れた文箱を棒にくくりつけ、それを肩に担いでいる。
「単なる棒でもいいから、肩に担いで歩いてみてください。背筋がピンとなるでしょう。これだけで無意識でいい姿勢で速く移動できます」(平さん)
では1日40キロ歩行を可能にしたのは何か。
「ちょっと使えばすぐに壊れる草鞋なんて履いていたのは金持ちや大名ぐらいで、庶民は普通は裸足で歩いていた。裸足で歩く場合、かかとから着地すると痛いので、自然と足先(母指球付近)で歩くようになる。やってみればわかりますが、それだけで一歩がかなりのびます」(同)
当時は「食べ過ぎで運動不足」のような概念とは無縁の人がほとんどだ。エクササイズ目的で歩く人などいないから、代謝を抑えた無駄のない動きが身についていたのだろう。しかし、現代日本で素足でアスファルトを歩いて通勤するわけにもいかない。平さんはこう続ける。
「舗装道路を歩くのに適しているのは靴であり、素足はもちろん、草履や下駄も適しません。古くから街に石畳を敷き、室内でも靴を履いてきた欧州では、靴で正しく歩く文化が定着しています。日本人は革靴でもスニーカーでも履く時に楽なように紐をゆるゆるにしがちですが、あれはダメなんです。欧米人は靴を履き直す際、いちいち靴紐をちゃんとゆるめてからしっかり締め直します。これだけで、姿勢良く歩けるようになります」
普段は靴紐をしっかり結び直して背筋を伸ばし、休日には公園の芝生の上を素足で歩いてみてはどうだろう。(編集部・大平誠)
※AERA 2019年5月27日号