ほとんどの人は、親や兄弟、我が子の顔をすぐ思い浮かべることができるだろう。海や山を見たことがある人は、そのイメージが浮かぶはずだ。
だが、実はこれができない人たちがいる。数年前、ついに医学書に記載されたこの症状の名を「
アファンタジア(aphantasia)」という。
記載されたのは最近のことだが、「心の目」が使えず、何かを「思い描いて」と言われて、それが比喩的な表現だと思って成長した人たちはかなりいる。
何しろ50人に1人がこの症状を有している可能性が明らかにされつつあるのだ。
アファンタジアが実在することを証明する難しさ
最も困難だったのは、アファンタジアが実在するのかどうか判断することだった。『
Cortex』に掲載された最新の研究はその解決を試みたものだ。
問題は、自分以外の他人が見ているもの(あるいは見えないもの)を知る術がないことに起因する。つまり、何かを想像せよと指示された人が頭に思い描いたものを説明したとしても、それを客観的に測る手段がないということだ。
また同じものを思い浮かべているのにその説明が異なる可能性や、違うものを思い浮かべているのに同じ説明をしている可能性もある。
錯視を作り出す3Dメガネを使った実験
これを試験するために、「両眼視野闘争」を利用した実験が考案された。まず被験者には3Dメガネが渡される。メガネの片方のレンズには横線が入った緑の円が描かれている。もう片方のレンズには縦線が入った赤い縁が描かれている。
このメガネをかけると両目に映るイメージが一致せず、それが不規則に入れ替わって見える錯覚を作り出す。ここでの場合は色のついた円だ。
しかし被験者はメガネをかける前にそのレンズの色の一方を想像するように指示される。その被験者が本当に心の中のものを思い描くことができるなら、指示されて想像した色が目にする錯覚の主要なイメージになるはずだ。
しかし被験者が心の中のものを思い描けない場合、両眼視野闘争による錯覚に何らかの影響が出たことが認められる申告はないであろう。
つまり自己申告の内容に問題があるというよりは、本物のアファンタジアの患者が心の中のものを想像できないのだと推測される。
アファンタジアの原因と治療方法を探る
そうなると次の疑問は、なぜこのようなことが起きるのか、そしてこの症状に何らかの治療は可能なのかである。
最も一般的な説明によれば、心の中の記憶を思い出そうとする時、脳はその記憶が形成された時と同じ活動パターンを再現しようとする。
したがってアファンタジアの原因は、その神経経路に何らかの損傷がある、あるいは神経経路を同じようには再活性化できないことであると考えられる。
もしこの仮説の正しさが証明されれば、治療法を確立し、想像できない病を治療することもできるだろう。
また反対に活性化パターンが過剰に刺激されてしまうような症状(その一部は依存症と関係があるとされる)を持つ人や、PTSDの患者も治療できるかもしれない。
via:sciencedirect / theconversation/ translated by hiroching / edited by parumo